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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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早起きは三文の徳Ⅶ

 結論から言うと、お咎めなしで済んだ。

 あの後、ユーキはその場で待機するように指示をされ、怯えながら従っていると、着替え終わった三人に風呂から出てくるように声をかけられた。

 顔にかかったままの小さなタオルをどかして脱衣所に戻ると、そこにはユーキの服以外何もなかった。

 びくびくしながら着替えて脱衣所を出た正面には、気まずそうな顔をした三人が立っていた。顔が赤いのは風呂に浸かっていただけでないことは明白である。

 まだ濡れた髪を乾かしていないのか、水気を含んだ髪が艶やかに光り、毛先にほんの少しの水玉を作り上げていた。

 数秒、沈黙したまま、目線だけのやり取りがあったが、意外にもアイリスが真っ先に口を開いた。


「ごめん、ユーキ。お風呂に入りたくて、脱衣所の前に会った看板があったのに入ったの、私なの」


 どうやら、メリッサはしっかりと使用中の看板を出していたのだが、中を確認して誰もいないと思い込んだアイリスがゴーサインをフランに出してしまったらしい。ユーキはフランへと目線を向けると、赤い顔のまま顔を縦に振った。


「ゆ、ユーキさんだし、そういう悪いことする人じゃないと思うので……その、私はあまり気にしませんので……」


 フランはユーキから目を逸らして、指をもじもじと動かしながら呟く。

 問題はその隣のサクラだった。じっとユーキを見つめて、何を考えているかわからない表情をしていた。


「えーと……サクラ? その、さっきはごめん」

「…………」


 呼びかけて見ても、何の反応もしない。

 怒るならまだしも、ずっと見つめてくるのは何故だろうか。ユーキが疑問に思っていると、思い当たる節が一つあった。

 以前に一度、川で汗を流していたサクラと出会ってしまったことがある。つまり、サクラにとってユーキには前科があるのだ。


「(もしかして、疑われてる!?)」


 過去の自分がやった(とは言っても、無理やり連れて行かれた)ことが、まさかここで仇になるとは思っていなかった。

 何とかして言葉をかけようと考えるが、謝罪以外の言葉が見つからない。

 その様子に何を思ったかサクラは無言で踵を返すと歩いて行ってしまった。慌てて追いかけるアイリスとフランに続き、ユーキも一歩足を踏み出すがウンディーネがそれを止める。


『はい、ストップです。ユーキさん。ここはそっとしておいてあげましょう』

「いやいやいや、ここで追わずにどうするんだよ」

『乙女心をわかってあげてください……と言っても、ユーキさんには無理そうです。とりあえず、今は私の言うことを聞いておいてください。いずれわかりますから。それが三人の入室に気付かなかった私が言える最大のアドバイスです』


 テレパシー越しでも、呆れられていることはわかった。

 そこまで鈍い人間ではないと思っているが、乙女心と言われてしまうと強く反論できない。不安を抱えたまま飯を食うわけにもいかず、ユーキはそのまま門で出発を待つことに決めた。


『ユーキさん。朝食は食べた方がいいと思いますよ』

「こんな状況で飯でも食ってたら、それこそなんて言われるかわからないからな。個人的に嫌だけど、一食くらいなら抜いても何とかなるさ。装備も街中だから使うかどうかもわからない。コレだけで十分だしな」


 使い物にならなくなった刀の代わりに、急遽用意した剣の柄を指で叩きながらユーキは窓の外を見る。空はユーキの心情とは真逆で、雲一つない快晴。これから気温も上がり、作業の大変さが十分予想できた。

 今日もまた微妙に風通しの良くなった家屋の中に入って、城壁だった石探しとなる。探している間はサクラたちとも別行動になるのが、唯一の救いだろう。何とか現場に着くまでの空気に耐えることができるよう、ユーキには祈ることしかできなかった。

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