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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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早起きは三文の徳Ⅳ

 考え抜いた末にユーキは二つ方法を考え出した。

 一つは火魔法によってお湯の温度を上げて、大量の湯気を発生させて視界を無くす方法。

 もう一つは風魔法で細かい水を大量に空気中に巻き上げて、ナイアガラの水飛沫のように視界を無くす方法。

 音をどんなに消しても見られたらアウトだ。逆に、視界を塞いでしまえば、どんなに音が聞こえても誤魔化すことができる。


「(風魔法は上手く使えたことがないし、ここは火魔法の方がいいよな)」


 そう思って右手をお湯から出して愕然とする。

 魔法を発動するためには、杖や指輪などの媒介がある方が効率がいい。特にガンドこそ強力だが、一般的な魔法を使い始めた初心者であるユーキには、必須と言ってもいいだろう。

 だが、ここは風呂。当然ながら指輪は外すのがマナー。つまり、ここでユーキが使える魔法は身体強化かガンドしかないわけである。

 そのことに気付いて再び全身の血の気が引くのを感じながら、チラリと岩の影から三人の様子を窺うと、きれいな白い背中が視界に入ってきた。

 思わず生唾を呑み込んだ時、ほんの少しだけ、フランの方から()()()()()()、という感覚が襲ってきた。

 嫌な予感に従って岩に隠れると同時に、フランが振り向いた。


「どうしたの?」

「ううん。何でもないです。誰かに見られているような気がしたので」

「フランさん。やめてよ。私、そういうの苦手なんだから」


 サクラはキョロキョロと辺りを見回す。

 当然、ユーキは岩の後ろにいるので姿は見えないが、いつ見つかるのかと心音が耳朶に響く。もしかしたら、その音が聞こえてしまうのではないかと錯覚するほどに、早く強くなっていくのを感じた。


「冗談ですよ。それに、今はお日様も出てますから幽霊も出てきませんって」

「そ、そうだけど」

「お日様が出てるから大丈夫って、吸血鬼から聞けるなんて……フフッ」


 未だに恐怖を抱いているサクラとは真逆で、ツボって肩を震わせるアイリス。

 三人とも一通り、体を洗い終わったのか、桶と風呂椅子を元の場所へと戻しに行く。


「さ、お風呂に入って温まろ!」

「今日は、夜も入りたい、な」


 チャポン、チャポンッと脚に続いて体がお湯の中へと入っていく音がユーキの耳にも届く。それがユーキには神々しい女神の歩む音にも、死神の近づく足音に聞こえてしまう。


「ふー、朝風呂も良いけど、アイリスの言う通り、夜に入って一日の疲れを取りたくなるなぁ」

「うん。だから、メリッサにお願いしといた。明日は夜も入らせてって」

「大丈夫だった?」

「うん。ちゃんとみんなのいない時間を取って、クレアやマリーとも一緒になれるようにしておくって」


 バタ足でもしているのか、水が跳ねる音と共に波紋が湯船を揺らす。


「私も頑張って働かないといけませんね。ついでに、何か商売のアイディアとかが転がってればいいのですけど」

「既に、かき氷で一山当てた」

「あれの契約料だけでは、まだまだです。アラバスター商会を超える商会を作って、我が家の汚名を返上しなければ……!」


 今度は立ち上がる音が響く。どうやら思わず興奮して立ち上がってしまったみたいだ。

 すぐに、お湯の中に体が沈む音が響く。


「その……ごめんなさい」

「いいのいいの。フランさんは色々と大変だけど、それだけのやる気があれば絶対に大丈夫だよ」

「そ、そうですか? 私、できるでしょうか?」

「あきらめなければ、必ずチャンスは来る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「チャンスの神様?」


 アイリスが言うには、カイロスという神様がいるとのことだ。雷神の末の子で、前髪しかない美青年と言われている。その髪を掴んだ者には成功するチャンスが与えられるが、それを掴まえるには常にそれを待ち構えている必要があるというわけだ。


「――――だから神様が通り過ぎてから掴もうと思っても、後ろに髪はないから掴めない。諦めて下を向いている人は気付くことさえ、できない」

「へー、そうなんだ。面白ことわざだね」

「……でも後ろの髪が禿げてるのは、美青年じゃ、ない」


 その言葉にサクラもフランも思わず、咽てしまった。

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