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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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早起きは三文の徳Ⅱ

「あ゛ー。生き返るー」


 肩まで湯につかって足を思いきり伸ばす。

 王都にあるほどの大きさではないが、少なくとも、二十人は足を延ばしても余裕で入る大きさだ。住んでいたり、仕えたりしている人数を考えれば、むしろ王都と逆にした方がいいかもしれない。

 ユーキは王都にある伯爵邸の風呂を思い出す。下手をすれば、今入っている風呂の二、三倍近くの広さで、しかもそれが二つあるのだから驚かされる。


「一人っきりになるのも、何気なく久しぶりか」


 ウンディーネは魔法をかけて綺麗にした服の中でお留守番だ。機会があれば、サクラたちに宿った石と一緒に入ってもらうのもいいかもしれない。そう考えながら、頭に小さなタオル(というには薄くてゴワゴワなもの)を乗せて、手だけを使って風呂の中央へと進んで行く。


「しかし、スゴイな。王都と違って、こっちは露天風呂を意識したような造りになってる。……屋内なのに」


 王都はタイル張りで、いかにも銭湯という雰囲気が漂っていた。こちらはそれに対し、風呂を囲っている部分は全て岩。タイル代わりに大小さまざまな石を組み合わせて、床を構成している。風呂の中央にも背丈より大きな岩がそそり立っていて、一瞬、ここが日本ではないかと錯覚しそうになる。

 ユーキはその岩の周りを回り込んで背中を預けると、意外にもお湯が浸かっていない部分はひんやりと冷たくなっていた。火照り始めた体に対して、首筋が冷やされ、何とも言えない気持ちよさに襲われる。


「ユーキ様」

「はいっ!?」


 唐突に入口からメリッサの声がかかり、心臓が跳ね上がる。


「(ま、まさか、お背中を流しますとか、そういうシチュエーション!?)」


 先程、感謝しているなんて言われた手前、まさかの展開を想像してしまう。

 流石にメリッサが服を脱いでくるなんてことはないだろうが、万が一という可能性もある。騎士の人たちも当分来ない、ということもあって想像が加速する。

 だが、ユーキの脳裏に一瞬で駆け巡った想像は、次の言葉で脆くも砕け散った。


「大きなタオルを用意し忘れておりましたので、お召し物の隣に置かせていただきました」

「あ、あぁ、そう、ですか。ありがとう、ございます!」


 拍子抜けしたユーキは、ずるずると湯船へとずり落ちていき、口元まで湯につかる。

 大きなタオルがあるかどうかを確認せずに風呂へと入る間抜けさと、妄想を膨らませて肩透かしを食らった間抜けさのダブルパンチがユーキを静かに襲った。

 メリッサの気配が扉の近くから消えると、ユーキは再び体を岩へと預け直す。


「(百数えたら上がって、朝食を食べれば、ちょうどいい時間か。フェイとクレアは先に現場入りして、準備しておくって昨日言ってたから、俺はサクラたちと後から合流すればいいよな)」


 頭の中でこの後の行動を概算で思い浮かべていく。時間にして一時間弱だが、問題はサクラがしっかり起きていてくれるかどうかだ。

 ユーキはビクトリアに運び込まれた部屋をそのまま使うことに抵抗があったが、男子ということもあって部屋が別に用意されることもなく使い続けていた。

 一方でサクラはアイリスとフランと同室で過ごしている。何事もなければ、フランが何とか起こしてくれていそうなものだが、若干の不安は拭い切れない。


「まぁ、最悪。フランに呼びに行ってもらうか。俺が入るとまたフェイに怒られそうだし」


 本当に最悪の場合、アイリス単体で悪戯を仕掛けてきて、サクラに迷惑をかけることも考えられる。マリーとアイリス、大穴で伯爵とビクトリア。この四名の行動によって、何か起きないかと何気なく警戒しているユーキである。

 しかし、運命の神は無慈悲であった。唐突に風呂のドアが開け放たれ、聞き覚えのある声が響いた。


「ほら、サクラさん。今日はお風呂を朝から使わせてもらえるんですから、パッと入って目を覚ましてください」

「うあー……寒いよー」

「(――――あ、俺、フェイに殺されるわ)」


 暖かい風呂に入っているにもかかわらず、背中とこめかみ辺りの温度が急に感じられなくなった。渾沌と対峙した時よりも生きた心地がしない。それにも拘わらず、どこか期待してしまう心があるのは仕方のないことなのかもしれない。

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