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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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早起きは三文の徳Ⅰ

 いつになく、すっきりした気分で起きると空はまだ暗く、小鳥もまだ囀らないような時間だった。

 ユーキは転がるようにベッドの端に寄ると足を投げ出して体を起こす。


「ちょっとは素振りもやっておかないとな……」


 テーブルまで歩いていき、剣を持って部屋を出る。

 一歩間違えれば、貴族の屋敷を夜明け前にうろつく不審者になりかねないが、その辺りはオースティンを通じて許可を貰っている。


「以前みたいな腕のツッパリとかは無いけど、やっぱり昨日の作業は筋肉痛になるかぁ……」


 今だからこそできるが、本来の三十間近の体でやっていたら、運が悪いとぎっくり腰をやってしまう可能性もある。

 外に出て、軽く体側を伸ばしながら体の調子を確かめるが、幸いにも多生のだるさがある程度だった。恐らく、一番疲労がきつくなるのは、今夜から明日にかけてだと予想しながら剣を振り始める。

 大きく振りかぶった剣が膝下あたりまで振り下ろされるたびに、空を切り裂く音がヒュンヒュンと鳴る。その音がどこか心地よくて、いつの間にか汗が滴り落ちるほどになりながらも振り続けた。

 次に時計を見たときには、いつの間にか三十分を経過しており、空も白み始める頃だった。


「お疲れ様です」

「あ、どうも。おはようございます」


 いつの間にか後ろに銀髪碧眼のメイド――――メイド長のメリッサ――――が立っていた。

 動揺しながらもユーキが挨拶すると、メリッサはお盆に乗せたコップを差し出す。


「お水はいかがですか? かなり長い間やってらしたので、必要かと思ったのですが」

「いただきます」


 差し出されたコップの水を一息で飲み干す。

 氷が入っていないのに舌の根を突き刺すほどの冷たさを感じた。


「ありがとうございます。助かりました」

「お役に立てたようで何よりです。どうされますか? 一応、お風呂の準備もできていますけれども」


 ユーキはその言葉に甘えようとしたところで思いとどまった。

 伯爵邸だからこそ当たり前のように風呂があるが、本来はそんなに簡単に入れないものだ。自分一人の為に準備をするとなると手間もかかる。

 魔法で汚れや汗を取り除くこともできるのだから断ろうと考えていた矢先、メリッサが付け加える。


「現在、お風呂は常に使えるようにさせていただいています。騎士の皆さんも交代とはいえ、ずっと働き詰めですので使えるように、と伯爵様から申し付けられていますので」


 なので変な心配をする必要はないのだ、と目で訴えかけていた。


「そうですか。では、お言葉に甘えさせていただきます」

「はい。騎士や冒険者の方には時間を区切っての使用をお願いしております。この時間は特に割り振られていないので、誰もいないと思われます。朝日が完全に顔を出した後、交代の作業になりますので一時間ほどは大丈夫でしょう」

「わかりました。わざわざ、ありがとうございます」

「いえ、お礼を言うのは私共の方です」


 メリッサは空になったコップを受け取りながら微笑んだ。


「何人かの騎士様から伺ったところによると、強大な魔物を倒したのはユーキ様と伺っております。マリー様だけでなく、この街も救っていただけた。伯爵家に仕える者として、感謝の念を抱かずにはおれません」

「お、俺は、そこまで大したことはしてないですよ。やれることをやっただけですから」


 その答えにメリッサは嬉しそうに頷く。


「そう思っているのは、ユーキ様だけです。それに助けていただいただけではありません。クレア様、マリー様、共に以前よりも明るく過ごされているように感じます。アイリス様やサクラ様というご学友ができたときも、お喜びになられていました。その時と同じかそれ以上に、お二人とも楽しそうで……」


 どこか遠い目で昔を振り返っているかのような表情に、ユーキは一瞬目が離せなくなっていた。

 ここまで使用人に心配され、喜ばれる伯爵家の人たちはよほどいい人であり、同時に伯爵家にとっても、いい使用人たちが集まっている。ユーキはそう感じた。


「お嬢様方がご迷惑をおかけするかもしれませんが、これからもどうかよろしくお願いいたします」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」


 お互いに頭を下げた後、一言二言風呂のことを確認して、ユーキは庭を後にして風呂へと歩き始めた。


『――――先ほどの会話、マリーさんにバレたら、悪戯しても良いという風にとられかねませんが大丈夫でしたか?』

「――――あ゛!?」


 思わず変な声を漏らすユーキ。どうかこの話がマリーに届きませんように、と願いながら屋敷の奥へと進んで行くのだった。

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