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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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安堵と休息Ⅳ

「もしかして……温泉?」

「正解! しかも、お肌がつるつる、スベスベになるっていう噂があるのだ」


 クレアが胸を張って応えた瞬間。サクラとフランの表情が変わった。

 ユーキからしてみれば、十代の肌なんて何もしなくても綺麗だろうと思ってしまうのだが、当の本人たちからしてみれば死活問題のようだ。

 しかし、水を火で温めるから温泉とは安直にもほどがあると考えるべきか、それともマグマなどの地熱を理解していると考えるべきか。いずれにせよ、子供が描いた宝の地図みたいで少し微笑ましくなった。


「でも、王都やこの屋敷にも風呂はあるのに、何でそこまでその温泉にこだわるんだ?」

「温泉の水質が違うんだよ。さっきも言った通り、入った後の肌がつるつるになるんだ」

「そう言うってことは、既に試したことがあるんだな?」

「もちろん。あたしとマリー小さかった頃に家族で行ったこともあるぜ」


 親指を立ててマリーもクレアの言っていることに頷く。

 つまり、クレアの案というのは街の修復後、王都に帰る途中で温泉に浸かって行こうということなのだろう。ただ、そうなると伯爵の騎士団所属のフェイは、どういう扱いになるかがわからない。ユーキは恐る恐るフェイに視線を向ける。


「……僕は先日の王都の件で、マリーのお付きの騎士となった。だから僕もついて行くし、王都にも滞在することになる。だから、そんな目をするな」

「そっか、フェイも一緒か」

「じゃあ、これからはみんなで王都で遊ぶこともできるね」


 サクラも笑顔で喜ぶがフェイ自身は複雑そうな表情だ。

 マリーたちと一緒に戻れることは嬉しいが、伯爵の騎士団としての活動からは外れることになる。フェイにとって、これを栄転と捉えるか、左遷と捉えるかは本人ですらも判断できていないのだろう。


「フェイは王都に行ったら、王都の騎士団と練習するのか?」

「あ、あぁ、マリーが学園に通っている時間はそうなると思う。個人の戦闘能力を高めるだけじゃなくて、集団行動の訓練にもある程度参加しておかないと、いざって時に動きが鈍るから」

「――――ってことは、普段戦わない人とも練習したり、行動できるから色々と学べそうだよな」


 今までの環境から抜け出す時に人はどうしても不安になる。

 ユーキの言ったメリットは不安を払拭できるほどではないが、和らげる程度には作用したのだろう。

 フェイもそれは考えていなかったという表情だ。


「まぁ、それも無事に城壁を直せたらの話ですよね。帝国軍は本当に大丈夫なんでしょうか?」

「流石に攻めてこないでしょ。敵味方問わず暴れる化け物を放って一発逆転を狙ったのに、やれたのは城壁を崩すことだけ。消耗した結界も修復され始めてるし、こっちでいう王都の騎士団クラスが押し寄せてこないと厳しいんじゃない?」

「でも、またあの黒い犬が出たら危ないんじゃないですか?」

「それはそうだけどね……」


 今回、不死身の魔物・渾沌を撃退できたのは、ユーキのガンドとフランの持っていたルビーに込められたドラゴンの魔力に依るところが大きい。もし、二人がいない状態で再び渾沌が現れたら、それこそビクトリアが街の外の地形が変わるほどの魔法を放たなければいけなくなってしまう。


「父さんも母さんも、そこら辺は対策を考えているみたいでね。既に手は打ってるみたい」

「はー、やっぱり人の上に立つような人たちは行動が早いな」


 ユーキは素直に感心する。

 自分が仕事をするときは、いつも一手どころか五手くらい遅くなっていたので、早く仕事を進められる人を尊敬してしまう。


「(今頃、あっちの方はどうなってんのかな? 失踪扱いの前に、無断欠勤でクビの可能性が高いよな)」


 元の世界に戻りたいとは考えているが、こちらに来てから既に二ヶ月が経っている。

 夏休みを挟んでも、既に開けて授業が開始されて一ヶ月は経過しているのは確実だ。教員としての人生は少なくとも、元の世界に帰った所で終了している。

 急に現実を直視してしまったことに後悔していると、クレアが手を叩いた。


「――――ということで、『温泉でリラックスしよう企画』も通ったことだし、今日は解散ということで」

「姉さん。そのネーミングセンスはどうかと思、う……」

「何? 他に良い名前を付けてくれるならどうぞ?」

「いえ、最高です。何も文句アリマセン」


 マリーが目を逸らしながらカタコトで返す。

 クレアの手が拳骨に握られた挙句、かなりの魔力が込められていたことに気付いたのは、ユーキだけだろう。

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