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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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復興作業Ⅵ

 クレアの下まで城壁だった石を運ぶと、クレアはニヤリと笑いながら話しかけてきた。


「お、しっかり運べたみたいだね。ほら、さっさと次に行った!」

「これ、俺がいなかったら全部フェイがやってたんだよな……?」

「そこは、あたしもフェイに申し訳ないと思ってるよ。だから、その分はユーキ。頼むよ」


 笑った顔から一転、クレアは顔の前に手を合わせて頼み込んでくる。

 本当はそこまで本気で頼んでいないのだろうと思いながらもユーキは肩を回した。


「わかってるよ。とりあえず、手伝うって言いだしたのは俺だし、責任持ってやるさ」

「そうかい。じゃあ、口の前に手を動かそうか。君の協力があっても、これはかなり大変な作業だからさ」


 同じように両手で抱えながらフェイが家の扉を肩で押して出てくる。

 フェイもやはり重たい石を持ち上げるのは大変らしく、歩く速さがだいぶ遅い。


「運ぶのも大変なのに、見つけるのはもっと大変なんだ。元々家屋の外壁に使われていた石なのか、見た目からじゃ判断できないからね」

「見た目は普通の石の癖に、厄介、だ……」


 そこまで言ってユーキはハッとした。

 見た目は普通の石でも、魔法がかかっているのならば魔眼に映る可能性がある。

 すぐにユーキはクレアに渡した石を魔眼で見つめた。濃い紫色の光が石から放たれているのが確認できると、踵を返して扉を潜っていく。


「玄関付近には無し。やっぱり城壁側の部屋が一番ありそうだな」

『本当に便利な魔眼ですね。魔法関係の道具を探すのに打ってつけです』

「いや、そうでもないさ。探す物と同じ色を探さなきゃいけないから、オリジナルを知らないと探せないし、視界に入らないとわからないからね」


 歩きながら目的の色を探すが、そうそう簡単には見つからない。真っ白なキャンパスの中にあるたった一つの色を探すのならば、これほど簡単なことはないだろう。

 しかし、ユーキが見ているのは極彩色の世界。その中から探し出すのは意外と難しい。辛うじて、普通の視界よりも手掛かりが増えるが、眼と脳には負担がかかる。


「昨日、魔力を使い過ぎたせいかな? ちょっと、視界が乱れるぞ?」


 乱視のように物の輪郭が僅かに二重になる。瞬きや軽く目を擦った程度では治らない。

 そんな中でユーキはフェイと先程訪れていた部屋へと入室する。城壁がある方向を背にして部屋を見渡すと視界の中に紫色の光を捉えた。

 近寄ってみると、棚の奥を貫通して壁にめり込んでいることがわかる。


「お、あったあった。でも、これじゃあ流石に取れないよな。バールか何かないと――――というか、これ勝手に壁を壊したらマズイか?」


 いくら城壁の石を回収するとはいえ、壁をほじくり返したり、棚を倒したりするわけにもいかない。他に自分で運べるものはないかと探すが、都合よくは見つからなかった。他に取れそうなところはないかと探すが、それもまた見つからない。


『この家にはあまり来なかったのかもしれませんよ? とりあえず、あった物だけでも報告してみてはどうですか?』

「そうだな。素人が勝手にやって迷惑をかけたら不味いだろうからな」

「どうしたんだ?」


 ユーキが途方に暮れていると、戻ってきたフェイが隣に立つ。


「いや、ここまでめり込んじゃったのは、流石に回収できないと思ってさ」

「あぁ、こういうのが一番面倒なんだ。ましてや、今回みたいなタイプだとね。近隣の家の破片が突き刺さった程度だったら、いくらでもなんとかできるんだけど、これだけは回収しなきゃいけないから」


 ため息をつきながらフェイが引き抜こうとするが、石はびくともしない。

 ユーキとしては壁ごと砕いて取り出すくらいしか手段が思いつかなかった。


「……ガンドでも撃ち込んでみるか?」

「僕がその案に頷くとでも?」

「だよなぁ……」


 ひょっとしたら、と思って提案してみたが、常識的に考えて無理なことは明らかだ。

 フェイもいい方法が浮かばないらしく、頭を悩ませているとサクラたちが部屋の中へと入ってきた。


「どうしたの?」

「サクラか。いや、壁にめり込んでる石をどうしようかと思ってさ。流石に砕くわけにいかなくて、困ってたんだ」

「どれどれ? あぁ、それなら、こうしちゃえばいいんじゃないかな?」


 サクラが杖を引き抜くと埋まっている場所に向けて、黄色い光が迸る。

 すると埋まっている石と気の壁の間に僅かに隙間ができた。


「ほら、木の水分を完全に抜いてあげれば、隙間が空くでしょ? 夏だからこういう木でも湿気を吸って、膨らんでるから」

「「……頭いいなぁ」」


 力業で解決しようとしていたユーキとフェイは同時に感心していた。

 壁から零れ落ちそうになっている石を引き抜き、重みに引っ張られながらも何とか支える。


「よし、埋まっている物は片っ端から今のやり方で外して行こう。いつもより手こずるかと思ったけど、何とかなりそうだ」

「……なぁ、フェイ。一つだけ聞いていいか?」


 ユーキはずっと思っていた疑問を口にした。


「城壁が壊れるって、普通は起こるはずないんだけど、何でそんなにやりなれているんだ?」

「……ユーキ、それ以上は聞かない方がいい。世の中には聞かない方がいいことも有るんだ」

「はぁ……」


 遠い目をするフェイを尻目に、ユーキは外へと石を運び出すのであった。

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