存在否定Ⅱ
騎士たちが対軍勢用に魔法を扱うことに慣れているとしたら、ギルド所属の対ブラックリスト部隊は単独または少人数のグループを襲撃することに長けた魔法を使う。相手より素早く、確実に魔法を当てるための訓練は欠かさない。
また、場合によっては生死問わずの荒くれ者を相手にすることもあるので、殺傷能力を高める技術も当然身に着けている。
一撃を放ち、敵の状態を確認。確認中に詠唱を行い、観測者の合図によって追撃が行われる。それを四人で交代して撃ち込むことで、一人当たりの負担は確実に減っていた。
「うちの軍より軍らしい動きをするじゃないか」
「馬鹿言うな。数撃ちゃ当たる戦場と確実に一撃与えなきゃいけない市街地での作戦は比べるだけ無駄だ。今回は、俺の部下たちの方が現場に合ってた、それだけだ」
ニヤリと笑いながらもギルドマスターは、懐から筒を取り出して渾沌を観察する。
「しかし、何だあれ。帝国の秘密兵器か? 俺たちが来る前に大分攻撃をしてたんだろう? あんなに撃たれ強い生物なんて御伽噺に出てくる魔王の配下とかレベルじゃねえのか?」
その言葉に思わずユーキたちは動揺する。
王都に聖女アストルムが訪れた理由は、そもそも勇者を探すためだったはずだ。そして、勇者は魔王を倒すために現れる。
更に付け加えれば、先日倒した魔物は、かつての魔王が配下にしていたという毒蛇バジリスクだ。ここで、また魔王に関する魔物が現れたとなれば、いよいよ魔王の復活であると考えてしまうのは仕方のないことだろう。
ユーキたちも魔力ポーションを飲んで、次の攻撃に備える。
その中でユーキは魔眼に映る渾沌の色が変化していることに気付いた。渾沌の抉られた断面が白く輝きながら、灰のように空中へ散っていく。そして、新しく散った部分を黒い部分が埋め尽くそうと集まるのだ。
「……でも無尽蔵に湧いてくる黒いやつをどうにかしないと再生は止まらない。何かいい方法は……?」
「核を潰すか。一つ残らず消し飛ばすかですね。ユーキさんの魔眼では、あの犬の核は見つけられませんか?」
「あぁ、黒か赤のまだら模様で常に動きまくっている。核はないのか、あるいは見えないのか」
ウンディーネの質問にユーキは首を振る。
核なんてものが見えるのならば、ゴーレムのように最初から狙っている。今見えるのは、グロテスクな赤い斑点と増え続ける黒い泥だけだ。
そんな時にユーキはふと疑問が浮かんだ。核とはそもそもどんなものなのか、と。火球に焼かれる渾沌の姿をじっと見つめて行ると、時折、渾沌が痙攣を起こしていることに気付く。
「もしかして……!?」
ユーキはすかさず右手を構えるとガンドを放った。
その狙いは数多に蠢く赤色の模様の一つ。それをガンドが抉ると、渾沌の四肢が痙攣を起こした。
「そうか、常に核が動いているから当たらないのか……!」
渾沌は核を自分の意思で移動させることができる。ただし、飽和攻撃によって避けきれないとダメージを受けるのだろう。
そして、なかなか死なないもう一つの理由は、その核の多さだろう。赤い部分は何十個と存在しているため、一つ二つを潰したくらいでは話にならない。
続けてガンドを撃って、その肉体を抉ると赤い色はみるみる減っていく。
「何だ? 急に再生が弱まったぞ!?」
「構わん、撃ち続けろ! 姿が見えなくなっても、油断するな! 肉片一つ残さず焼き尽くせ!」
安堵の表情が浮かぶギルド職員をギルドマスターは一喝する。
そして、それはユーキも同感だった。なぜならば、再び渾沌の体に赤い斑点が増え始めたからだ。
「なるほどね、核も黒い部分から再生させることができるのか。文字通り一撃で消し飛ばすしかないか――――無理ゲーにもほどがある」
ユーキが苦虫を噛み潰した顔をする横でフランが火球を放つ。それが着弾すると、渾沌は痙攣し続ける。
「(……なんだ。今の!?)」
フランの攻撃が当たった時だけ、他の誰とも違う動きを渾沌がしていた。更に付け加えると、増え始めていた赤い斑点は増殖を止めている。
「フランの攻撃は再生を防ぐ効果がある……?」
「ど、どうしたんですか? 急に私の顔を見て!?」
フランは驚きながらも杖を構えて、次の詠唱をしようか周りを見渡していた。
その胸元に煌めくルビーのネックレスを見て、ユーキの中に一つの仮説が生まれる。
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