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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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渾沌、七竅に死なずⅣ

 フェイが近付いていくと、伯爵が苛立ちながら戸惑いの言葉を吐いていた。


「くっ!? こいつ、まったく動きが変わらない。本当に生き物か!?」

「伯爵! お下がりください!」


 風切り音と共に渾沌の頭が大きく横へ動く。前脚も一瞬、浮きかけるほどではあったが、それでも傷はついていない。すぐに体勢を立て直すと、伯爵が目の前にいるにも拘わらず、混沌はフェイの方へと顔を向けた。


「てめぇの相手は俺だ! よそ見すんじゃねえ!」


 伯爵が剣をほぼ真下から顎に向けて振り上げる。

 常人が受ければ顎が割れるどころか、衝撃で頭蓋と頸椎が砕ける一撃。それを渾沌はまともに受けて、空中で二回転した後、地面へと倒れ伏す。


「フェイ、こいつはお前が思ってるよりヤバい奴だ。ここは俺に任せておけ」

「今、あちらでビクトリア様たちが反撃の準備をしています。僕が囮になって、引き付けるので援護を!」

「おいおいおい、そういうこと言うのは後二十年してから言いやがれ。お前みたいな奴を囮に使うなんて寝覚めが悪い!」

「単純な素早さだけなら自信があります。それは伯爵もご存じでしょう?」


 伯爵と並んで剣を構えるフェイ。その横顔を見て伯爵の顔の皺が一層深くなる。。


「わーかった、わかった。作戦を聞かせろ。俺が代わりにやる」

「無理しないでください。数十分とはいえ、ずっとあの化け物と張り合ってたんですから、体力もかなり消耗しているでしょう」

「ちっ、仕方ない。ヤバそうだったら、横槍入れるからな」

「はい、その時はお願いします」


 渾沌が起き上がったのを確認して、二人に緊張が走る。

 尻尾を一振りすると、突風が吹き荒れ、砂が舞う。一瞬、目眩ましで攻撃が来るのかと二人は警戒するが、相変わらず天を見上げて嗤っていた。


「――――身体強化・限定解除」


 フェイの周りを風が渦巻く、砂煙を吹き飛ばし、視界を確保した。

 渾沌の目は閉じられているにも拘わらず、伯爵とフェイが見えているかのように顔を左右に振っていた。まるで、どちらを相手にしようか迷っているように。


「こっちだ! 化け物!」


 フェイが大きく剣を振りかぶって、渾沌へと振り下ろす。

 だが、その距離は明らかに遠く、後数十歩は進まないと届かない位置だった。渾沌でなくても、初めて見た相手ならば、一瞬何をやっているか理解できないだろう。

 そして、理解できないまま、顔面に剣を叩きつけられたかのような衝撃が奔り、その顔が揺れる。


「え!? なんですか、今の!?」


 フランが驚きの声を上げる。

 ユーキも魔眼がなければ同じ反応をしていただろう。剣を振り下ろし始めると同時に緑色の閃光が渾沌目掛けて一直線に放たれた。フェイが身体強化で限定解除をした時の様子から考えると、答えは自然と推測できた。


「風の刃、か」

「あら、あなたの魔眼。そういうのも見れるのね」


 ビクトリアが面白そうに言うが、普段に比べて、余裕があるようには聞こえなかった。杖を握る手に余程の力が籠っているのか。ただでさえ白い肌が白く見える。

 それは城壁に残っている騎士たちも同じで、詠唱を既に終え、いつでもフェイのフォローに入れるよう待機している。中には、声を張り上げてフェイを応援している人もいた。

 渾沌が顔を持ち上げる前に、既に伯爵とフェイは走り出していた。獣は逃げる相手を襲う本能があるというが、渾沌もそれに当て嵌まったのだろうか。逃げる二人の背を追うように地を蹴って走り出す。その加速力は最初にユーキが見た時と変わらず、ほんのわずかな時間で二人に接敵する。


「おっと、行かせるかっ!」


 フェイの背中に飛び掛かろうとした渾沌を、伯爵の剣が真上から地面へと振り下ろされる。

空中に浮いていた渾沌は即座に地面へとキスをすることになった。


「フェイ! こいつの足は速いぞっ! もっと本気出せ!」

「はい!」


 まだ速力を見誤っていたフェイを叱咤して、伯爵も恐ろしいほどの速度でユーキたちの待ち構える場所へと走ってくる。

 ユーキたちの準備は既に完了し、後は狙えるまでの距離とタイミングを合わせるだけだった。

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