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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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渾沌はただ嗤うⅧ

 基本的に遠距離から攻撃魔法を何十人もの集団で放つ場合、真っ先に使われる魔法は火球の魔法だ。最初に習う魔法の為、多くの人間が習得している。一般的に、どのような年齢層であろうとも魔法が使えるとは、「火球の魔法が最低限放てる」という意味であった。

 故に、火球を全員で放てば、敵の逃げ場を無くし、互いに干渉して減衰することを最小限に抑えて攻撃できるということが最大のメリットだ。その上で効果なしと判断されれば、他の属性攻撃魔法へと移っていく。

 炎の雨が降り注ぐ中、化け物は兵の上半身を消し飛ばしたように尻尾でそれを掻き消す。だが、雨のようにという言葉の通り、降り注ぐ火球を勢いよく払ったところで、第二第三の波を振り払えるはずもなく、黒煙を貫いて火球が化け物へと着弾した。


「よし! どんどん撃て!」


 誰が叫んだかはわからないが、その言葉を聞いた騎士と冒険者たちは、ここぞとばかりに魔法を放ち、ポーションを飲み干す。


「おい、あたしたちは撃たなくていいのかよ?」

「まだ相手がどんな動きをするかわからない以上、魔力を無駄に消費するのはやめた方が、いい。ただでさえマリーは、魔力を使ってきたっぽいから」


 最後が自信なさげなのは、単純にアイリスがマリーの活躍を簡単に聞いただけで、どの魔法をどれだけの時間放ち続けたのかわからないからだ。まさか、火球の魔法を十数発撃ちこんで終わりだとは思うまい。


「多分、あの攻撃じゃ倒れないと思うから、突っ込んできたところを狙うのが一番かも。サクラさんが土魔法で道を狭めたところを」

「あたしが撃ち抜くって形だな。任せとけ」

「俺はそれが外れたときの為に待機の方がいいかな? それとも、同時に攻撃するか?」


 ユーキは魔眼で化け物の動きを見ながら提案する。


「マリーの攻撃が効いたのか、ユーキさんの攻撃が効いたのかわかりにくいから、今回は別々の方がいいんじゃないかな?」

「オーケー。じゃあ、時間差で攻撃するよ。クレアさんは?」

「――――土魔法で岩の槍……いや、この場合は壁か。それを作る。一人でやるより負担は少ないだろう? 一度見ているから、多分、規模や距離感もサクラに合わせられると思う」


 そう言ってクレアは杖を抜き放つ。

 以前は、魔法をあまり使いたくはない、と言っていた彼女の変化にユーキは一瞬戸惑ったが、倒さなければいけない化け物を前に覚悟を決めたのだ、と納得して視線を前に向ける。

 かなりたくさんの火球が命中しているようだが、今のところダメージを与えられていないように見えた。


「そろそろ動き出すぞ……!」


 ユーキが呟くと二、三拍遅れて、化け物が土埃の中から飛び出して来た。予想通り、その肉体には傷一つついていないようだ。


「サクラ、準備は?」

「大丈夫です!」


 合図とともに岩の槍が化け物の両側を封鎖する。飛び越えても、破壊しようとも、前進しようとも、その動きから推測して、確実にマリーの魔法が当てられる状態になった。

 詠唱が済んだマリーは、迫りくる敵の様子をじっと観察する。どうやら化け物は岩の壁を意に介さずに直進することを選んだようだ。


「思いっきり、吹き飛ばしてやる!」


 杖を振りかざした瞬間、かつてユーキが放ったような紅の閃光が駆け抜けた。

 化け物の顔面に直撃した瞬間、そこから後方へ十数メートルにも及ぶ炎の余波が広がった。


「す、スゴイ、ですね」


 フランが杖を構えたまま唖然とする。それは他の冒険者や騎士たちも同じで、攻撃する手が一瞬止まってしまった。


「あ、あれなら、少しは……!?」


 そう発言したクレアだったが、すぐにそれを後悔することになる。炎の中にうっすらと黒い影が浮かんだからだ。

 最初は気にならなかったが、炎が弱まるにしたがって、その姿がはっきりしてくる。嫌な予感が全員の脳裏を駆け巡った。


「う、そだろ……」


 城壁の上にいた誰かが呟いた。

 炎の中からは毛一本すらも焦げていない化け物が現れたからだ。その場でくるくると尾を追いかけるように回った後、尻尾を一振りする。するとたちまち周囲の炎が霧散してしまった。

 伯爵やビクトリアすらも声が出ない中、化け物の嗤う声が虚しく響く。


「黒い犬、爪のない足、尾を咥えて回る、天を仰いで不気味に嗤う……」

「何か知ってるの?」

「いくつか当てはまる特徴はあるんだけど、実際に見たことないし、明らかに違う行動をしているから何とも言えないんだけど……!」


 アイリスに無言の視線で促され、サクラは迷った末に、その名を口にした。


「四凶の一つ。悪徳に嗤う獣『渾沌』。お父さんの書物でしか見たことないけど、それに一番近いかも。元は帝国の伝承をまとめたものだから、限りなく当たっているとは思う」

「それで弱点は!?」

「渾沌には二つの姿があるの。一つは三対の翼と足に顔のない黄色の獣。そちらは顔に七つの穴を開けられて死んだっていう逸話があるんだけど――――」


 ゆっくりと歩き始めた、その敵の姿をじっと見つめながら呟いた。


「――――犬の姿の渾沌の逸話は、ほとんど載ってないの」

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