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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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火力戦Ⅲ

 部屋に集まったユーキたちを、伯爵は重い腰を上げてゆっくりと見回した。


「ここの守りは最小限にして、騎士と冒険者による城壁の防衛を行う。既に騎士たちは空が明るくなる前に配置についている」

「それで、あたしたちはどうすればいいんだ?」


 マリーが真っ先に声を上げると、伯爵は言い辛そうに目を細める。

 横にいるビクトリアも目を伏せたまま一切、身動ぎしない。


「フェイは緊急時の伝令兵に。配置はこの後で言おう」

「了解しました」


 フェイが一歩前に出る。

 その表情に恐怖の色はなく、勇ましさに溢れていた。


「クレア。お前は客人たちと共にここで籠城だ」

「……わかりました」

「父さん! あたしは――――」

「話は最後まで聞けっ!!」


 マリーが口を挟もうとした瞬間、見えない何かが吹き荒れたような気がした。まるで突風にあったかのように、体中に衝撃が走る。


「……ユーキ君。申し訳ないが、君には城壁から狙撃をお願いしたい。もちろん、魔力を使い切ったら後ろに下がって休んでくれて構わない。それくらい君の戦力は貴重なんだ」

「――――わかりました」


 ユーキは深夜にガンドを放った時に、既に問われる前から覚悟を決めていた。

 自分の力で少しでも早く、戦争を終わらせるのだ、と。


「そして、マリー。お前は母さんと一緒に行動するんだ」

「え……!?」

「前にも話をしていただろう。お前の魔力制御にはロックがかかっている、と。それを外して魔法を使ってもらう」


 唖然とするマリーに伯爵は言葉を続ける。


「私には及ぼないまでも、一撃で部隊を壊滅させるくらいは可能なはずよ」

「それじゃ、あたしが前線に?」

「そうよ。怖いかしら?」

「はっ。望むところだ。この街を救うためなら、いくらでも杖を奮ってやるさ」


 その言葉を聞いて、クレアの顔が曇る。

 しかし、それにマリーは気付いていない。


「そう……。なら準備をしなさい。私の箒に一緒に乗って、上空から焼き尽くしましょう」

「待って、母さんが本気で魔法を放ったら、辺り一帯が焼け野原になってしまう。それは、どうするつもりなんですか」

「――――」

「答えてください。父さん!」


 クレアが伯爵へと詰め寄る。

 この作戦を取ると言うのならば、城壁で耐えている間に敵の本隊を強襲し、打撃を与えて撤退させる。そのような展開が予想される。だが、それほどの魔法を撃てば、かなりの広範囲が最低でも一年以上は使えなくなる。

 それは伯爵自身が痛いほどわかっているはずだ。


「……命無くして、繁栄無し。土地はいくらでも開墾できる。食料も金を出せば分け与えることはできる。だが、失った命だけは帰ってこない。ならば我々ができることは、一つだけだ。被害の少ない内に敵を退けること。帝国の火力が城壁を崩すのが先か。ビクトリアたちの炎が敵を焼き尽くすのが先か。時間との勝負だ」

「それで……!」

「それが戦争だ。理想論だけでは誰も救えない。それとも、()()()()()()?」

「――――ッ!」


 クレアが伯爵を睨む。

 伯爵もまた、それを睨み返した。


「姉さん。大丈夫だって――――」

「大丈夫なわけないだろ! あんた、自分が何をしようとしてるか、わかってんの?」

「あらあら、それ以上はいけないわね」


 ビクトリアが杖を振ると急にクレアの声が聞こえなくなる。

 いや、そればかりではない。クレアが首を抑えて、苦しみ始めたからだ。


「まさか……!?」


 ユーキたちは以前に見たことがあった。アイリスが暴走した時に、クレアが放った風魔法。

 あの時は酸素を減らすだけだったが、更に真空の層が挟まっているようで、声を遮断している。

 一瞬、嫌な予感が全員に走るが、その魔法はすぐに解除された。肩で息をするクレアにビクトリアは静かに告げた。


「あなたには、口を挟む資格がないの。わかるかしら? マリー、着いてきなさい。ポーションを持って、出撃するわよ」

「あ、うん……」


 何が起こったか、わからないままマリーはビクトリアへとついて行く。

 ユーキもサクラも、アイリス、フラン、そしてクレアもフェイも。誰も声を出すことができなかった。

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