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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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火力戦Ⅰ

 最低限の戦力を城壁に残し、伯爵が帰還したのは深夜三時のことだった。


「マリーたちは?」

「流石に子供たちは寝かせました。あと二時間くらいは大丈夫でしょう」

「そうだな。闇夜に紛れて攻撃するのは、もうできないと相手も気付いているだろう。朝に備えて、準備を進めていると考えるのが妥当だ」


 椅子に腰かけるともたれ掛かって天井を見上げる。

 交戦をしていないとはいえ、いつ破られるともしれない城壁の近くで指揮をとり続けたのだ。その精神的損耗は計り知れない。


「朝になれば魔法の撃ち合いが始まる。結界はどの程度まで修復できる?」

「地脈の魔力の吸い上げにも限度があるから、良くて七割程度かしら」

「それまでに、こちらは相手の攻撃を凌がねばならんか。俺が前線に出てもいいが、あちらの切り札に出くわすとマズイ」

「――――高将軍ね?」


 ビクトリアは逡巡の後、その名を告げた。


「あぁ、そうだ。この国で言う俺のように、蓮華帝国における化け物の一人だ。弓の名手で、ダンジョン産の強弓『飛廉』を使う。矢を放つにも拘わらず、その軌道は槍の如し、と聞く。そんな奴が半年前から、この近くに来ていたという話を聞いたが、嫌な予感が当たったな」

「なるほど、あれが……」


 ビクトリアは自分の火球やユーキのガンドで撃ち合った矢のことだと、すぐに気づいた。

 あれほどの攻撃は忘れようにも忘れられないだろう。


「何? 奴と会ったのか?」

「えぇ、無詠唱とはいえ、私の火球を相殺するほどでしたから。恐らく、本気で射れば互いに無事では済まないかと。私も腕の一本は覚悟しないといけないかしら」

「よく無事だったな」

「夜空に向かって射ることは、普段しないでしょう。多分、あの状況ではそれが精いっぱいだったということでしょうね」


 ビクトリアは肩を竦めるが、伯爵の顔は苦虫を噛み潰したようだった。


「昼間の攻防だったらやられていた可能性が高い。奴は一発放つのに二秒とかからない。大岩すら貫通するという威力の矢が二秒に一度襲ってくるんだぞ。俺ならまだしも、他の騎士が持ちこたえられるかどうか……」

「そうとなると、むしろ短期決戦。場外に出て行かなければならないかしら。いえ、それは相手の思う壺。それこそ、こちらのアドバンテージがなくなってしまう」

「そう。だからこそ、相手に知られずに俺が動くしかない。だが、それは相手も読んで来るだろう。ここは一つ奇策を考えなければならん」


 総数不明の軍団の中には流石の伯爵と言えども突入する気はない。

 逆に言えば敵の配置や総数さえわかれば、いつでも出撃する気でいる。ただし、そのためには後一手が足りなかった。


「敵軍を混乱に陥れる火力をお前が出した場合、かなりの影響が土地にも出るだろう。流石に、あの近辺を燃やし尽くせば、街の人間が飢え死にする可能性も否定できない」

「あら、失礼ね。まるで私が加減できない人間に聞こえるのだけれど」

「実際にできんだろう。お前に出てもらうのは最終手段だ。最低でも城壁が破壊されるまでは、お前に出てもらう気はない」


 既に先程の火魔法による攻撃で、かなりの土地が焼き払われてしまっている。このまま続けて行けば、今は大丈夫でも後々に響いてくるのは間違いない。それが例え、王家からの保証があるとしてもだ。


「とりあえずは騎士たちの魔法で迎撃。恐らく二時間程度はもつはずだ。それまでに、お前には偵察に出てもらって、敵の配置をこいつに送ってもらえれば、何とかなるかもしれん」

「あら、私が撃ち落とされる可能性もあるかもしれないのよ?」

「はっ!? 誰が撃ち落とされるって? 俺の惚れた女が、そう簡単に他の男に落とされるはずがないだろ。それに、既に対応策の一つや二つ、思いついてるんだろう?」

「私のことをよくわかっているわね。あなたのそういうところ、私、大好きよ」


 ビクトリアは少し喜びながら、部屋を後にする。

 その背中を伯爵は見送りながら呟いた。


「さーて、何とか作戦考えるか……」


 入れ替わるようにして入ってきたオースティンとメリッサの補佐を受けながら、朝までの残り少ない時間を伯爵は眠らずに対応策を考えることに費やした。

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