開戦Ⅲ
爆撃に継ぐ爆撃。城壁の前に存在する結界が防いでいるため、何とかなっている。だが、万が一にも城壁を破られた場合に備え、伯爵は城壁を離れて攻撃を行えない。
遠距離攻撃をしようにも攻撃の範囲外、矢は届かず、魔法で撃っても威力が減衰して弾かれたり、そもそも当たらなかったりなのだとか。
「後ろには進めず、前にも進めずか。ビクトリアさんの魔法で対応できるんじゃ?」
「そうしたいのは山々なんだけど、相手はどうやら位置を誤魔化す魔法を使っているようなんだ。一応、ここらあたりの土地を吹き飛ばすと、後で修復が効かない場所もある。居場所がはっきりするまでは手出しできない」
「相手の方が一枚も二枚も上手ってことか」
何か手はないかと考えていると、サクラがじっとユーキの眼を見ていた。
あまりにも見つめられるのでユーキは思わず一歩下がる。
「な、何か俺の顔についてる?」
「もしかして、ユーキさんの魔眼だったら敵の居場所ってわかったりするのかなって」
「見たことがないから、何とも言えないけれど、上手くいけば見れるんじゃないかな?」
何せウンディーネの存在を見ることができる程度には優れモノなのだ。地脈の魔力の流れも見て取れたということは、位置を誤魔化すための魔力の流れも見ることができるかもしれない。
「だけどユーキさん、これ以上前線出たら死んじゃうんじゃ……」
「そうだな。確かにさっきは危なかったし」
ユーキはサクラとフェイに言われて、そっと左腕を擦る。
もしかしたら、無くなっていたかもしれないという恐ろしさに鳥肌が立つ。
「でも、このままだとみんな死んじゃう。何か手を考えないと……」
「朝日が昇ってしまえば観測できる、と考えてもいいのか?」
「あ、あぁ、流石に目視を誤魔化せるほどの魔法の常時展開はかなり魔力を使う。ユーキの言った通り、朝が来れば母さんも何とかできるけど……」
クレアの歯切れの悪さからすると、最悪、朝まで持たない可能性がある。そう思ったユーキは、意を決して宣言した。
「ビクトリアさんに会いに行こう。一つだけ、上手くいく方法があるかもしれない」
「あのユーキさん。あまり無理をしたら」
フランもおずおずといった感じで止めに入るが、ユーキは首を振った。
「この戦い、時間が経つごとにこちらに不利になっている。それならリスクを多少とってでも、動かなきゃいけない時だ。それに、まだ死ぬつもりは毛頭ない。俺と出撃しても、ビクトリアさんなら安全なところから確実に攻撃できるからね」
「へぇ、面白そうなことを言うのね。少し聞かせてもらおうかしら?」
どこからともなくビクトリアが現れて、ユーキに笑いかける。
魔法使いとはいえ、神出鬼没過ぎて、もはや人とは別の存在なのではないかと思いかけるが、何とか思考を元の路線に引っ張り戻す。
「えぇ、いくつか確認したことがあるのでよろしいですか?」
「もちろん。それで、何を聞きたいの?」
「そうですね。例えば――――」
ユーキはいくつかの質問をすると、ビクトリアも途中からユーキが何をしようとしているのか理解し始めたらしい。
「なるほど、そういうことなら失敗しても、最悪、命の危険はない。成功すれば大打撃を与えることができる。天気はいい具合に曇っているから、成功の方が高いかも……」
「母さん。あまり無理してユーキにケガさせたら、あたしでも怒るからな」
「あらあらあら、少し見ない間に強くでるようになったわね。まだ、力を扱いきれてないヒヨッコに言われるほど、母さんの腕は酷くないわ、よ」
マリーの言葉に対して、遠くからデコピンの動きをビクトリアがすると、バチンと破裂音が鳴った。
続いてマリーが悲鳴と共に額を抑える。
「ま、せめてこれくらいは軽くできるくらいじゃないと、母さんに意見は通せないわ」
さらにもう一発、大きな音がなるが、それはマリーの腕に防がれた。
「母さん。ふざけてる場合じゃないだろ!」
「それもそうね。じゃあ、坊や。少しばかり、あなたの眼を借りるけどいいかしら?」
「もちろんです。この街を守りましょう」
ユーキの返事を聞いて、ビクトリアはもう一度笑ったが、その目は酷く悲し気だった。ユーキの周りに子供たちが群がって、励ましたり心配する様子を見ながら溜息を吐く。
「この街を、守る……ね」
ビクトリアの呟きは誰に聞かれることもなく夜風にかき消された。
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