掃討作戦Ⅶ
「ウンディーネ。フェイの治療完了までどれくらいだ?」
『最低でも一分は』
「わかった。何とか時間を稼ぐ!」
大きく深呼吸をしてユーキは剣を構えた。
そして、体中に魔力を流していく。それは身体強化の魔法だった。
「待て、それは……!」
「お前が命張ってくれたんだ。俺だって、それくらいやらなきゃ釣り合わないだろ」
そう思って発動はしてみたが、ユーキの手は震えていた。
一歩間違えば、あの世界がやってくる。動けず、話せず、聞こえず、ただ茫然と自分の思考だけが渦巻く、時の流れから追放された世界。
だが、きっと、そうなったとしても、フェイが伯爵邸まで運んでくれれば、何とかなるだろうと剣を握りしめる。
「身体強化――――発動」
声に勢いはなく、ただ自分に言い聞かせるように呟く。
己の体に爪先から頭の頂点に至るまで魔力が満ち溢れ、時折、破裂音と小さな閃光と共に肌にひりつく痛みが走る。
「かかって、こいや!」
心の声とは相反するように挙げた雄たけびに、シャドウウルフたちは一斉に駆けだした。
「(残存魔力はまだ半分以上! 目の前に見える個体だけなら、何とか殺し尽くせる!)」
魔眼に映る獣の姿は色こそ違うが十二体。撃退できない数ではない。
飛び掛かってきた一匹を再び両断すると、その背後から一匹、両側からそれぞれ一匹の計三匹が襲い掛かる。
素早くバックステップして目の前の一匹にガンドを放ち、続けざまに両側の二体へと順に射抜いていく。
「(――――残弾三発)」
冷静にガンドの使用可能数を数えながら、吹き飛ぶ屍を越えて来るシャドウウルフに相対する。
今度は上半身ではなく足へと噛みつこうと低く飛び込んで来た。右足を引いて、そのまま踏ん張ると左足で奈落の片道切符を蹴り渡す。
さらに勢いのまま回転すると、無防備な背中を狙って飛んだ敵と眼が合った。勢いを殺さず、横一文字にシャドウウルフの大きく開いた口をぱっくりと切り裂く。
だが、そこへ火球が二発迫って来ていた。流石に剣を振り切った状態のユーキには、防ぐことが敵わず直撃を食らい爆風が屋根を吹き飛ばした。
「ユーキ……!?」
「舐めんなっ!」
ユーキは怯むことなく、黒煙の中から一歩踏み出すと火球を放った個体へとガンドを放つ。狙い過たず、それぞれの脳天へと突き刺さった。
「そうだ。ユーキさんの周りには結界が張られているんでした。あれならブレイズウルフの火球でも減衰できるはず!」
「(――――残弾一発。残り五匹……!)」
ウンディーネの言う通り、ユーキの周りには結界が張られている。
しかし、それにも受け止められる限度が存在する。僅かな衝撃が結界の内部に食い込んでおり、ユーキの左肩と右腕に痛みが生まれていた。
「(危なかった。結界が無かったら、一体どれくらいのダメージだったんだ……!?)」
ユーキは知る由もなかったが、このときの火球は並の身体強化なら上半身が吹き飛んでいてもおかしくない威力だった。ハッキリ言って、幸運どころの騒ぎではない。
冷や汗を夜の生暖かい風が冷やしていく。残る五体、いずれもただのシャドウウルフではあるが、脅威には変わらず。ユーキの出方を見るようにじりじりと足を前に進める。
「(よし、そのままいてくれ。そうすれば後少しでガンドの装填が――――)」
ほんの少しの油断だったのだろう。
飛び道具と言う間合いの外から相手を一方的に殺すことのできる手段。それさえ手に入れば、シャドウウルフなど恐れるに足らず。
それが目の前のシャドウウルフだけに意識を向けてしまった原因だろう。
――――ミシッ
その音が聞こえた。いや、体で感じた瞬間、それは既に頭上に現れていた。
「(くそっ、まだ生き残りがいたのかっ!?)」
ユーキが崩した屋根の瓦礫を器用に飛び越え、中型のシャドウウルフがフェイ目掛けて飛び掛かった。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




