掃討作戦Ⅵ
崩れ落ちて行く巨大ウルフの魔物を背に、ユーキは心の中でガッツポーズをした。
「よし、フェイ。後は追ってくる奴らを何とかしたら、伯爵邸へ――――」
『ユーキさん。フェイさんの様子がおかしいです!』
フェイは何事もなかったかのように走っていた。
しかし、ウンディーネの声でユーキが顔を上げると、手や顔が不意に落ちてきた何かで濡れた。
「ぐっ……ふっ……」
「おい、フェイ!? 止まれ! 止まるんだ! 俺を降ろせ!」
ユーキが叫んだことでフェイもようやく止まる。
そのまま、ゆっくりと崩れ落ちるようにユーキを降ろして、その場に膝をついた。
「ウンディーネ! 治療を!」
『任せてください。その間、周りの警戒をお願いします!』
ユーキは自分の手を見つめた。そこにはフェイの口から滴り落ちた血が付いていた。
ガンドの装填まであと数秒。それまでに魔物に襲われないという保証はない。ユーキは使い慣れない剣を抜いて構える。
既にフェイが振り切った巨大なシャドウウルフとブレイズウルフがこちらに向かっているのも確認できた。ガンドさえ放てれば問題はないはずだ。
「おい、フェイ! いつやられたんだ!」
「前に言ったじゃないか。実力が伴わない内は身体強化の無理な使用はダメだって、な」
口元を拭いながらフェイは呼吸を整える。
「僕の場合は身体強化に風の魔法の補助を使っている。さっきのも圧縮した風を自分の体に叩きこんで、無理矢理加速していたんだ。体が、鍛えられていれば耐えることもできるんだけど、僕にはまだ早かったみたいだ」
『フェイさん、動かないでください!』
青い光がフェイの体を包んでいくが、口から吐き出される血はまだ止まらない。
「待って――――あなたまさか……!?」
ウンディーネが何やら驚きの声を上げるが、ユーキはそれ以上先を聞くことはできなかった。
夜空の星を覆い隠すようにシャドウウルフの巨体が躍り出る。
即座に再装填したガンドを二連射すると顎と腹を貫通し、衝撃で後ろへと吹き飛んでいく。空中に血が舞い散る中、それを切り裂くように後続のシャドウウルフが続く。
大きい個体から小さい個体まで様々だが、どれも等しくユーキたちを殺そうと駆けてきていた。
「(下からは巨大な個体、屋根には通常の個体。合わせなくても数えたくないほどの数がいるのはわかる。フェイを守りながら俺が戦えるか……?)」
緊張で手に汗が滲む。そんな思考をしている間にもシャドウウルフは距離を縮めてきていた。
「できるかじゃなくて、やらなきゃまずいだろうがっ!!」
己を鼓舞するように叫ぶと、ユーキはガンドを放とうと指を向ける。
だが、まだ放たない。
「(弾切れだけはマズイ、できるだけ引き付けてあいつらを巻き込みながら戦わないと……!)」
先程消費したガンドの魔力を装填し、先頭を走るシャドウウルフに向けてガンドを放つ。
後ろにいた十数匹ごと巻き込んで屋根を吹き飛ばし、追って来れないようにする。
次にユーキが目を向けたのは、前方から迫っている群れだ。ここで屋根を破壊してしまったら逃げ道がなくなる。そう思ってユーキはフェイの前に立った。
「僕なら、一人で逃げれる。早く置いて行くんだ」
「馬鹿野郎。次、同じこと言ったらぶっ飛ばすからな!」
下からユーキたちの方へと飛び掛かろうとしていた巨大な個体に向かって、ガンドを放ち撃退する。
即座に前から飛び掛かってきた小さな個体には剣を振り下ろした。
初めて振るった得物だったが、するりと下まで通り、その体を両断する。あまりの手ごたえの無さに驚く間もなく、飛び掛かってきたシャドウウルフを切り伏せ、蹴り飛ばして落とし、ガンドで撃ち抜く。
あっという間に四匹が駆逐されて、流石の魔物でも危険を感じたのか足を止めて唸り声をあげる始めた。
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