掃討作戦Ⅳ
フェイに抱きかかえられながら、ユーキは次の場所を指し示す。
「次、あっちの方。さっきの距離の二倍くらい」
「くっ……好き勝手言ってくれる。こっちは闇で目が効かないっていうのに」
「時間がないんだ。多少の無理は、お前ならできるだろ?」
しかし、ユーキには魔眼で起点や街の様子を見ることができてもフェイにはそれができない。高く飛び上がるたびに、安全に着地するのも難しいはずだ。
「伯爵邸から見える範囲はほぼ潰したし、これを潰せば、後は南方面だ」
「一番遠いから単純に見えないってことか」
「そういうことっ!」
多少の被害には目を瞑り、ある程度近くに来たところでガンドを使って吹き飛ばす。対象は民家の屋根だったため、大きく天井に穴を開けることになった。
後で弁償するのは伯爵のため、心の片隅で謝っておく。
「いいな。次は言った通り、南の方へ向かうぞ。見落としはないな?」
「あぁ、頼むぜ」
かっこよく返事はしてみるものの、フェイにお姫様抱っこをされている以上、ユーキ的には情けないことこの上ない。
内心、恥ずかしさを堪えながら、向かう先へと顔を向ける。
時折、街の中で閃光が奔るのが見えるが、騎士たちがシャドウウルフと交戦しているのだろう。中には炎に照らされて、巨大な影が建物の壁に映し出される。
「あれ。どんどんデカくなってないか?」
『はい。先程、十メートル越えのシャドウウルフを捕捉しました。既に伯爵が討伐を終えて、次の獲物を探して奔走しているところです』
「すごいな。ウンディーネって言うのは、そういうこともできるんだ」
『風精霊ほどではありませんが、ちょっと無理をすれば似た芸当ができるというだけです。わかる情報も限られてますから』
フェイが感心しながら、走るスピードを上げる。
小さなシャドウウルフが、火球を放ってくるが、既にそこにはフェイの姿はなかった。
勢いよく空中を跳び、一つ向こう側の道の更にその先にある建物の屋根へと着地する。
「街のダンジョン化なんて、と思っていたところもあるけれど、人外魔境の様相を呈してきたね。これは、本格的に急がないと……」
ブレイズウルフの放った火球が起こした爆音が遅れて聞こえる。恐らく、この音で騎士たちもこちら側に向かう部隊が出始めるだろう。
更にフェイが駆け始めると、ユーキの視界に南地区の様子が見え始める。
「そろそろ跳ぶぞ! 舌を噛むなよっ!」
「了か――――」
ユーキが言い終わる前に、フェイが思いっきり跳躍する。
南地区の全貌がユーキの視界へと叩き込まれるが、その中に起点の色はない。
「まだ、もう少し近づかないと――――!」
「わかった。もっと近づくぞ!」
着地と共に、フェイはその反動で前方へと飛び出した。ウルフたちがその進路上にいるが、その早さに反応できたのは一匹もおらず、気付いた時にはフェイが既に走り去った後だった。
「もう一度!」
今度は斜め前方へと大きく跳ぶ。眼下では跳躍の頂点に至るまでに三つほど家の屋根を飛び越した。
風で瞼が開けにくい中、何とか魔眼を維持しているユーキの眼の中に信じがたい光景が飛び込んでくる。
「で、かい!?」
今まで見てきた赤い光は、大きくても花瓶程度の大きさだったが、大人一人かそれ以上の大きさに見えた。遠くから、かつ移動して見にくいことを含めても見間違いではない。
ユーキは魔力を右腕に集め始める。それも手加減なしでだ。
たかが人一人の大きさに大げさなと、思うかもしれない。それは確かにそうだろう。だが、その花瓶程度の大きさから大きなシャドウウルフが生まれていたのだ。人の大きさともなれば、どれだけ強力な個体が出るかわからない。
事実、ユーキの眼にはいくつもの白と赤の入り混じった巨大な四足歩行獣が、闊歩しているのが目に入っていた。
「どうするつもりだ!?」
「広場の噴水内に大型の起点。巨大なシャドウウルフ及びその亜種多数。一撃で吹き飛ばしたとしても、反撃は必至だ。それならばシャドウウルフ諸共吹き飛ばす!」
「そんな威力出せるのか?」
「あぁ、何となくわかる。アレくらいなら三匹くらいは貫通してでも、ぶち抜けるってね」
フェイはその言葉を聞いて、近くで一番高い建物の屋根に飛び降りる。すぐに両手からユーキを解放して降ろした。すかさず、ユーキは跪き、右手首を左手で抑えて照準を定める。一呼吸の後に、その指先から魔力の閃光が放たれた。
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