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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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掃討作戦Ⅰ

 夜を迎え、ユーキは伯爵邸へと戻ってきていた。

 肩で息をするというのは、まだまだ体に余裕があるのだと思ってしまう程、体の疲れは限界に来ていた。

 いや、フェイが代わりに走っていたから足腰に問題はない。正確には、魔眼を使い過ぎて頭痛と倦怠感に襲われているのだ。


「お疲れ様。とりあえず、これで冷やしてみたらどうかな?」

「ありがとう。風邪でもないのに頭は熱いし、眼も熱を持ってるみたいで違和感しかないんだ」

『私の方でも一応、補助はかけたんですが……気休めにしかならなかったみたいで。やはり、その魔眼。危険なのではないですか?』


 ウンディーネも回復魔法をかけたのだが、一向に調子は良くならず。陽も沈んだということで、伯爵邸へと帰還したわけだ。すぐに伯爵の執務室に通されたものの疲労困憊で、椅子にフェイと共に落ちるように座り込む。腕や肩を揉んだり、額に冷たい布を置かれるが、それに反応する気力すら残っていない。普段ならば、女性に触られる感覚に心臓が跳ね上がっていただろう。

 そして、帰還したのはユーキだけではなかった。伯爵もまた、同様に戻っていた。


「あいつら俺の姿見るなり、蓮華帝国側の国境に戻っていきやがった。流石に相手の領土へ入ると何を仕掛けられてるかわからんからな。こうして一時戻ってきたんだが、そちらもダメだったか」

「はい、かなりの数を潰したんですが、まだ残っているみたいです」

「厄介だな。シャドウウルフの発生は抑えられているのか?」


 伯爵はアンディの方へと振り返った。


「はい。先程帰ってきた部隊の報告によると、私の部隊の遭遇率に対して半分を切っています。恐らく、ここから見える範囲は街の三分の二程度なので、彼らの働きで被害は最小限に抑えられているといっても過言ではないでしょう」

「大型の魔物の発生は?」

「それも同様です。彼が起点とやらを潰せば潰すほど発生が増えるかと危惧していたのですが、そうではないようです」


 アンディの言葉に伯爵が胸を撫で下ろす。

 この夜の間に街がシャドウウルフに占拠されるという最悪の状況は避けられたわけだ。

 しかし、マリーは伯爵へと不安そうに声を上げた。


「だけど、大丈夫なのかよ。夜の警備をこんなに大人数でやったら、明日攻めてきた場合、寝不足でやられちまうぜ」

「この策略、成功すれば即座に街を落とし、失敗してもこちらの戦力を大幅に削ぐことができる。これを考えた奴は余程、性格が悪い優秀な奴だ。俺の部下だったら即座に首を刎ねてるけどな」


 一般庶民を巻き込んでの戦闘はゆるされるべきではない。これは伯爵にとっての譲れない部分だ。戦争と言うのは全て王侯貴族、そして兵士の役目である。そこに庶民の出る幕などない。

 貴族側は税を納めてもらう代わりに彼らを保護する義務を負っているからだ。

 だから内乱であったとしても、お互いの民には決して手を出さない。それがどんなに有名無実化しているとしても、建前上はどこの貴族も一応は守る姿勢を見せる。

 対して、蓮華国にはそれがない。庶民を巻き込もうが何をしようが構わない、というのはこの一件で明らかだ。それでも声を大にして批判できないのは証拠がないからだろう。

 国王経由で非難したとしても、帝国からしてみれば軍の無断越境の抗議に比べれば、あしらうのは簡単に違いない。


「国境沿いの騎馬隊は追い回しても無駄、か。それなら、街の中の治安維持に力を割いた方がいいな。外にいるシャドウウルフは冒険者たちが何とかしてくれている。内部の方もいるにはいるが、そこまで手が回っていないようだったな」

「そっちの方は大丈夫。もう街の外のシャドウウルフはほとんど残っていないから、街の中の方にも手が回るはずよ」


 部屋の隅で黙っていたビクトリアが目を開ける。

 恐らく、何らかの魔法を使って様子を見ていたか報告を受けていたのだろう。まるで、今さっきまで城壁にいたかのような話し方だった。


「それで問題の起点の方だけど。全部ではないのよね。あなたが回復するまでどれくらいかかるかしら?」

「一時間ほど休ませてもらえれば、大丈夫だと思います」

「それなら月が上がりきる前に街を正常に戻せそうね。フェイ、あなたも行けるわね?」

「はい。もちろんです」


 返事こそしっかりしているものの、フェイも椅子にもたれ掛かって主人の前とは思えない格好をしている。そして、その言葉を最後にユーキとフェイの意識は闇の中へ落ちて行った。

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