三合火局の陣Ⅷ
立ち上がることができたユーキだったが、足を一歩踏み出すと腹に激痛が走った。
「ぐっ……」
「あの巨体だ。内臓にまで衝撃がいってる。あまり無理をするな」
フェイが騎士団の輪の集団から駆けてきた。ユーキを支えながら、顔を覗き込む。
そのフェイを振り払ってユーキは、もう一歩踏み出した。
「大分、起点を破壊できた。ここが踏ん張りどころだ。ここで止まっていられない」
心配そうにフェイが見つめる中、その背後から声がかかる。
「フェイ。今の彼には機動力が必要です。そういう意味で、君ほどの早さに長けた騎士はいないでしょう。私たちが魔物を何とかしている間に、一つでも、その起点を壊してもらいたい」
「アンディ隊長。それはどういうことですか?」
「君に隊を離れた行動を認めると言っているのです。本来ならば有り得ない采配ですが、この状況ではそれが一番いいでしょう。その重りをさっさと外して、彼を背負って街を一周してきなさい。彼女たちは私たちが送り届けますから。お嬢様たちも、それでよろしいですね?」
アンディの言っていることが理解できないユーキの目の前で、フェイは自分の鎧を外し始めた。
兜を鎧を腕や足に着けていた物も全てだ。全身が覆われるタイプの物ではないとはいえ、外すのには時間がかかった。残ったのは布の服を着て剣を革ひもで括りつけた姿だった。
「ユーキ君。詳細は我々もビクトリア様からの連絡で把握しています。彼に指示を出してくれれば、街のどこにでも連れて行ってくれます」
「それは一体……?」
「こういうことだよ」
一陣の風がユーキの目の前で巻き起こる。
「――――身体強化・限定解除。君が使った時ほどではないにしろ、これでかなりの速度が出せる」
言うや否やユーキはフェイに抱きかかえられる。
それも背にではなく胸元に。所謂お姫様抱っこ状態だ。
「ちょっ! 何でこんな」
「うるさい。僕だってしたくないけど、背負ってたら制御が難しくなるし、後ろからの攻撃に反応しにくいんだ。君を抱えて走るために鎧も全部外さなきゃいけないんだぞ。いいから黙って言うことに従え!」
「は、はい……」
恥ずかしさよりもフェイの怒りに気圧されてしまう。
フェイ自身も顔が赤くなっているようだが、ユーキはそれに気付かない。
「みなさん。後はお願いします」
「任せとけ。嬢ちゃんたちを送り届けたら、街中徘徊しているからな。えっちらおっちら追いかけてこい」
仲間の騎士からの声援を背に、フェイは軽く助走をつけると屋根の上へと飛び移る。
「おーい! フェイ! あんまり無理はすんなよな!」
「わかりました。また屋敷でお会いしましょう!」
大声で返すとフェイはユーキを抱えて走り出す。そのまま屋根の端まで来ると大きく上に飛び上がった。
「ひっ!?」
思わずユーキはフェイの腕にしがみ付く。眼下に街が広がるほどにジャンプをしたからだ。
「ほら、この方が街を一望できるだろ、っておい! なに目を閉じてるんだ! 早く起点とやらを探すんだ!」
「俺が一番苦手なのは落ちることなんだよっ!」
ジェットコースターの浮遊感ですら無理なのに、こちらの世界に来る時は、それを無限と思えるほどに経験したのだ。もはやトラウマと言っても過言ではない。
「せめて一言言ってからやってくれ!」
「――――先に言ってたら我慢できたのか?」
「無理っ!」
「じゃあ正解だな。ほら、周りを見ないとこの両手を離すぞ!」
マリーのような意地悪な笑みを浮かべてフェイが脅すため、仕方なくユーキは魔眼で街を見渡す。
今までになく心臓が跳ね、肺と肋骨と横隔膜と胃、近くにある器官を全て叩いているかのような錯覚をしながら、何とか起点らしきものを見つける。
フェイの腕を片手で握りしめながら、小さくその場所を指差した。
「あ、あそこ! 曲がり角に赤い壁の建物の所!」
「オーケー。よくできましたっ!」
着地はほとんど音をさせることなく足を付けると、一気に前方へと走り出す。
ユーキの声にならない悲鳴を笑いながら、フェイは街の中を駆け巡り始めた。
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