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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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三合火局の陣Ⅶ

 シャドウウルフにとって一足飛びで槍衾を超えることは可能であった。

 しかし、先程の横腹に受けた一撃がその選択を狭めていた。掠り傷一つないが、痛みがないわけではない。痛みと言う名の恐怖に縛られ、どうせ同じ痛みならば、とでも思ったのだろうか。目の前に掲げられた盾と言う名の壁へと踏み出す。

 額で盾をかち上げ、そのまま全員を吹き飛ばす膂力はある。高い位置に掲げられた槍など避けてしまえば何の脅威でもなくなる。

 姿勢を低くし、その巨体が一気に加速する。一歩、二歩、そして三歩目で盾のすぐ正面に躍り出る。

 正面に槍が並んでいるが、それを頭を下げて避け、前進する勢いと共に頭を振り上げる。

 その時、シャドウウルフの目の端で盾が急に持ち上がった。自ら防御を捨てるなど愚の骨頂。そのまま、突っ込まれ胴体を跳ね上げれば一撃終わってしまうはずだ。

 そんな一瞬の交錯。結末はシャドウウルフの脳天に衝撃が奔る形となる。


「ま、槍にはこういう使い方もあるってことだ。悪いな、ワンちゃん」


 一人の騎士が、してやったりとシャドウウルフに語り掛ける。

 シャドウウルフには人の言葉は理解はできないだろう。しかし、何となく馬鹿にされていることはわかったようだ。折れかけた前足に力を込めて、今度こそ吹き飛ばさんと踏ん張り始めた。そこに、いくつもの衝撃が横腹を襲う。

 巨体を支える四足が震え、目の焦点が合わないばかりかぎょろりと裏返る。シャドウウルフは、膝から力が抜けたかと思うと、そのまま地に伏した。

 背後からそれを見ていたマリーは驚きで声も出なかったようで、唖然としている。


「なるほど。人間の力には限界があるから、あの巨大なシャドウウルフ自身の力を利用したのね。というか、この石畳に時々ある窪み。まさか槍を固定するためとは思わなかったわ」


 そう言いながらクレアは地面に埋まっている石を蹴る。

 騎士団がやったことは簡単なことだ。人が投げても突き刺さらないなら、固定した槍に自ら突っ込んで刺さってもらうという、とんでもない戦法だ。盾を構えていた最前衛は、盾の真後ろに槍の穂先を隠し、盾を退かすと同時に槍を固定していた。

 頭からつっこんでくるシャドウウルフの巨体を逃げずに待つ胆力は、普段から鍛えていなければできるはずがない。そして、この戦法を使うのは普通の地面でも有効だが、今回のような使うことを想定した窪みがある方が効果的だ。

 つまり、この作戦は街が作られたときから想定している戦い方の一つなのだ。街の中に攻め込まれるというのは即ち、敵国の侵入を第一に考えている。当然、使い道はトップシークレットの一つなので、マリーが知らないのも無理はなかった。尤も気付く人が見れば気付く仕掛けではあるので、騎士団がこれだけを頼りにしているというのは、あまり考えられない。

 そこへもう一つ、止めに使われたのはサクラも使う土魔法、通称「岩の槍」。ただし、正確に言うならば、岩の槍で無理やり騎士たちの槍を撃ち出すという荒業だ。脳天に槍が刺さった瞬間に横腹から内臓を射抜くように、槍が人の膂力を遥かに上回る力で捻じ込まれ、シャドウウルフの命は絶たれる。


「人間に出せない力は魔法に頼る。身体強化だけが俺たちの戦い方じゃねえからな」


 誇らしげに騎士の誰かが呟くと同時に、水音と重たいものが落ちる音が響いた。

 もう一匹の巨大なシャドウウルフが、その体を横たえている。


「あちらもやっと窒息してくれたみたいです。何とか抑えきれてよかったです」


 ウンディーネが深く息を吐く。彼女からしてみれば、このような魔物をシャドウウルフと言っていいかすら疑問だった。

 シャドウウルフは行商人などに恐れられるほど狡猾で素早く、数を使って襲ってくる驚異の魔物ではある。一方で、冒険者たちが戦えば、難なく退けられるほどだ。その理由は、魔法数発で倒れるほどの耐久性の低さにある。

 それに比べて、目の前のシャドウウルフは人の力では槍が通らず、息を吐き出しても一分以上暴れる気配があったことを考えるに、もはや別種と言っても過言ではなかった。

 彼女の脳裏に嫌な考えが浮かぶが、それを振り切ってユーキへと呼びかける。


「ユーキさん。立てますか? 早く次の起点を探しましょう」

「あ、あぁ、そうだな。その通りだ……」


 ゆっくりと立ち上がりながらユーキは頷いた。

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