三合火局の陣Ⅴ
街中を走っていくと、慌てて伯爵邸へと駆けて行く住民とすれ違う。
持っている物も必要最低限の物に限られており、避難するときに邪魔にならず身軽に動けていた。
「てっきり声を大きくする魔法でも使うのかと思ってたけど、そうでもないんだな」
「各家庭や店には母さんが用意したボードがあってな。家のマスターボードに母さんが火魔法で焦がしてやると、同じ焦げ跡が出るようになってるんだ」
「なるほどな、準備のいいことで」
昔あったポケベルよりは便利だが、いつまでも残して置けないという意味ではメールなどに劣る。それでも多くの領民に知らせるという点では、十分な働きをしていただろう。
「伊達に辺境伯の妻をやってるわけじゃないからね。それでも錬金術みたいなモノ作りは専門外だって言ってた」
「ま、あたしからすれば複雑な気分になる程度には作れるんだけど――――って、ユーキ着いたぜ。さっき言ってた白い建物ってこれだよな?」
「そうそう、ナイス道案内!」
ユーキは中に人がいないことを確かめると、人差し指を突き出して建物の壁に向かってガンドを放つ。
弱めに魔力を込めたおかげで壁の一部が吹き飛び、中に瓦礫が散らばるが、そんなことを気にしている余裕はない。
「よし、これで八つ目だ。ウンディーネ、魔物がいそうな場所とかわかるか?」
『次の交差点を東に進むと何匹かいるみたいです。どうやら……騎士団と戦闘中!』
「よし、そこまで行こう。それで見えなかったら、サクラ、またさっきのを頼めるか?」
「大丈夫、まだ魔力に余裕はあるから」
ユーキの予想通り、建物の壁に埋め込まれたり、路地裏に放置されていた石などを中心に白色の光が周りの物へと侵食をしていた。ガンドである程度吹き飛ばすと地下から上がってきていた光も途絶え、魔物も出現しなくなる。
問題は一つ壊した後、次の目標物がどこにあるのかわからないところだ。
なんとかその場で地下の流れを確認して確かめる程度ならできるが、周りに建物などがあると魔眼でもすべてを見通すことはできないらしく、ある程度遮蔽物がない状況でないと発見できない。
仕方なく、目標を探すときはサクラの作った岩の槍を駆けのぼり、周りを見回して魔眼で最短距離のものを探すようにしている。
「さっきみたいに透視っぽく見えれば楽だったけど、それは無いものねだりってやつだよな」
『大丈夫ですか? あまり無理をすると前みたいになりますよ?』
ウンディーネの心配を他所にユーキは、言われた通り東へと曲がる。
既に遠目でも騎士団がシャドウウルフと戦っているのが見えた。その中にはフェイの姿もある。ちょうど最後の一匹を仕留め終えたところのようだ。
「ユーキ。今なら安全だ。このまま、怪しいところを探してくれ。あたしはアンディに状況を伝えてくるから」
「了解。じゃあ、そっちはマリーに任せた。みんなはシャドウウルフが出てくるところがないか見ていてくれ!」
騎士団の手前まで来ると、ユーキは息を整えながら魔眼を開く。
身体強化をあまり使わないようにしているためか、他のメンバーよりも呼吸が荒い。粘り気の強くなった唾を飲み込みつつ、時計回りに辺りを見回すと家屋の影に宝箱のような物が置かれているのが眼に入った。
魔眼も宝箱の色が先程までに見てきた色と同じだと告げていた。だが、その光の流れ込み方が異様に早い。
「何だ……? さっきよりも大分デカいぞ!?」
急いでガンドを用意するが、光が急激に流れ込んで炸裂する方が早かった。
光に眼を覆って庇う中、耳に重く地面を踏みしめる音が響く。数秒して、腕を退けるとそこには体長四メートルに届きそうな巨大なシャドウウルフが佇んでいた。
「で、でかっ!?」
驚きの声を上げたユーキだったが、その声に反応したようで、シャドウウルフは一足飛びでユーキへと飛び掛かった。
慌てて指を向けてガンドを放とうとするが、それより先に横から槍が数本、ものすごい勢いで飛んできた。
騎士団の身体強化を使った槍の投擲がシャドウウルフの横っ腹へと当たると、空中でバランスを崩してユーキの手前で倒れ伏す。だが、次の瞬間にも、地面から飛び退り、騎士団を警戒するように低い姿勢で唸り声を上げ始めた。
「槍、刺さってない」
「そうだね。多分、それだけアイツの毛皮が厚いんだろうさ」
クレアは一歩下がりながら杖を構える。この距離で飛び掛かられたら、ユーキのガンド以外では魔法の詠唱が間に合わない。
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