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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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三合火局の陣Ⅳ

「伯爵。大変言いにくいんですけど、この街を破壊しても構いませんか?」

「……理由を聞こうか」


 伯爵が先を促す。


「この街の特定の場所がダンジョンからの魔力の供給でシャドウウルフを生み出すと同時に、ダンジョン化の起点になっていると思います。だから、その起点を跡形もなく消滅させることができれば、問題の一部は解決するのではないかと」

「おいユーキ、一部ってことは全部は解決しないってことかよ」

「あぁ。サクラが言った通り、もしも敵が三合火局という方法を使っているのなら、それを崩さないといけない。一つで崩れてくれれば楽だけど、三つの内の二つを何とかしないといけないなら、かなり面倒だ」


 マリーはその返事に唇をかみしめる。

 最悪、シャドウウルフは冒険者たちで何とか出来るだろう。だが、残りの二つ。つまり寅と午に当たる部分は、蓮華帝国の軍が相手だ。生中な手では崩せない。


「でも、そうなると地脈の流れを何とかして変えなければいけなくなります」

「それは最終手段だ。数は少ないが強靭な膂力を持つフロストタイガーを扱う部隊。数は多いが自身は攻撃力を持たない騎馬隊。どちらを潰すのが有効か」

「それなら騎馬隊の方がいいかもしれません。午は火の主軸になる干支です。上手くいけば、それ一つで魔法の効力を無力化できるかもしれません」


 伯爵はしばらくサクラの言葉を聞いて悩んでいたが、街をじっと睨むと踵を返した。


()()()()()。騎馬隊の一つや二つ、蹴散らしてくれる。留守は頼んだぞ」

「任せてください。万が一のときは――――()()()()()()()?」

「当然だ」


 ビクトリアの前で一度止まると伯爵は軽くキスをして、伯爵邸へと戻っていく。

 その光景を見ていた女性たちは、少しばかり顔を赤らめてしまっていた。ビクトリア自身も満更ではないようで頬に朱が差している。


「ごほんっ。では、ユーキさん。あなたの言った通り、街の起点となる目標物の破壊をお願いすることにします。私の魔法で街にいる人々には、現状を伝えておきましょう。思う存分に破壊してください」

「いいのですか?」

「もちろんです。建造物ななんて後から幾らでも作り直せます。あなたが言ったように、跡形もなく吹き飛ばしてください。その所有者には後から見舞金でも出しましょう。それより――――」


 ビクトリアはユーキへと近寄ると声を潜めて忠告する。


「――――その魔眼。まるでかつての大魔法使いのように地脈を見ているようですが、あまり言いふらさない方が賢明よ。そうでないと、()()()()()()()()()()()()()()()わ」


 ユーキの背筋に冷や汗が流れる。

 ビクトリアの言葉を聞いた瞬間、全身を電気が走ったかのような衝撃が走り、動かなくなる。

 しばらく目の前でビクトリアとの睨めっこが続く。ふっと表情を緩めて顔が遠のくと、体も弛緩し動くようになった。


「これであなたが精霊を連れている理由がわかったわ。変に警戒して損してしまったじゃない」

「は、はぁ。すいません」

「あ、それと、ここの砦も見て行ってもらおうかしら。住民を全員避難させたのに、ここにシャドウウルフが湧いたら困るから」


 ユーキはすぐに魔眼で砦を見渡すが、そもそもここには地脈の逆砂時計が繋がっていなかった。街にはいくつも存在するのに、ここだけないのは何故なのか疑問に思いながらビクトリアへと告げる。


「それは良かった。では、私はここでやることがあるから、街の方はお願いするわ。クレア、マリー、ここが正念場よ。間違っても死なないでね」


 娘を心配する母親の声掛けであったが、娘二人はあっけらかんとした様子だ。


「わかった。母さんこそ、無理しないで」

「こんなのすぐに片づけてくるから、母さんは無理せず引っ込んでても大丈夫だぜ」


 二人の言葉にプライドが傷ついたのか、ビクトリアは胸を張って姿勢を正した。


「誰に言ってるのかしら? 私は紅の称号を持つ大魔法使いビクトリア様よ。あんたたちに心配されなくても大丈――――」

「「いや、心配なのは街の方だから。母さんはできるだけ魔法使わないで」」

「あ、やだ。そっちの意味?」


 クレアとマリーが声をそろえて言うとビクトリアは恥ずかしそうに口に手を当てて笑っていた。笑っていたが、その額に青筋が浮かびかけていたのをユーキは見逃さなかった。


「じ、じゃあ、連絡はビクトリアさんに任せて、俺たちも行こうか。多分、時間との勝負になりそうだしさ」

「そ、そうだね。みんな、急ごう!」

「れっつ、ごー!」


 ユーキたちに急かされて、クレアとマリーはビクトリアを肩越しに見ながら街の方へと下っていく。

 その光景を微笑ましそうに見送ると、ビクトリアは振り返らずに表情と声を一変させた。


「メリッサ」

「はっ」

「オースティンと共に街の住民の保護に行きなさい。他の屋敷の者は受け入れの準備を」

「了解いたしました」


 メリッサもユーキの面倒を見ていた時とは打って変わって、顔から感情が抜け落ち、冷徹な眼差しになっていた。


「急ぎなさい。最悪の場合、私の魔法で少しばかり地形を変えることになるだろうから」


 ビクトリアの口の端が持ち上がる。

 その様子をユーキが見たら、驚いて声も出なかっただろう。彼女の体から天に届かんばかりに魔力が溢れ出ていたのだから。

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