三合火局の陣Ⅱ
クレアとマリーの案内の下、伯爵邸へと向かうための大通りを抜ける。
所々で急にシャドウウルフと出くわすが、多くても三体程度だったため、ユーキがガンドで確実に仕留めながら進んで行くことで事なきを得た。さながらシューティングゲームをやっているようだと、頭の片隅で勇輝が思う程には余裕だったと言える。ただし、それは勇輝たちのいる場所が完全に安全ならばの話だ。
「まさか、こんなに多くいるとは……早く城壁を修復しないとキリがないぞ!?」
「そういうのは専門に部隊と職人を割り振ってあるから心配するな。さっさといくぜ!」
大通りに出てからはユーキも道がわかるため、走るスピードを上げてマリーへと並ぶ。
冒険者ギルドの前まで来ると、ギルドマスターが武器を持って出てくるところだった。
「お前らか、ちょうどいいところに! 街の中に――――」
「シャドウウルフが入り込んだんだろ! 今から父さんたちに説明しに行く!」
「それなら話が早い。その対処にはギルドの職員で対応する。俺自身はここから遠くにいけねえが、何かあったら教えてくれ!」
「オーケー。間違って食われんなよ!」
サムズアップして、再び走り出す。後方からギルド職員が大声を上げて、士気を高めているのを感じながら、ユーキたちは伯爵邸を目指した。
途中でシャドウウルフに出会うことはあったが、かすり傷一つ負うことなく伯爵邸まで辿り着く。
「ユーキのガンドは相変わらず反則だよな。詠唱なしでそこまでの威力とか……」
「そうでもない。連射には限界があるからな。全力で撃って六発が限界だ」
苦笑いしながら門を潜ると騎士団の集団と入れ違いになる。
アンディを先頭に三十人ほどの集団がぞろぞろと歩いていく。
「フェイ!」
マリーがフェイの姿を見つけたが、フェイは顔を向けて微笑んだだけで何も話さなかった。集団行動中を乱すわけにもいかないだろう。それを知って、マリーもそれ以上は呼びかけなかった。
「何だ。お前たち、もう帰ってきたのか」
伯爵が騎士たちを見送っていたのか、門の向こう側で仁王立ちしていた。
クレアは伯爵に気付くとその側まで駆け寄った。
「父さん。街の中にシャドウウルフが侵入している!」
「何だと? たかがシャドウウルフ如きに城壁を破られたのか!?」
「今はギルドの職員が対応してくれてる。あたしたちは、とりあえず、それを伝えようとして来たんだ」
伯爵は門を出て街を見下ろしながら眉間に皺を寄せる。
そして、もう一人。街を見渡しながら、同じような顔をする人物がいた。
「ユーキ。どうしたの?」
「いや、シャドウウルフって集団行動をする生き物だろう? それにしては出会った時には少ない数だったから気になってさ。それに城壁が破られたにしては遭遇した数が少なすぎる。城壁を破るくらいなら、それだけ多くのシャドウウルフがいたはずなんだ」
「確かに……」
サクラも横で考え込む。
下手をすれば街の中にシャドウウルフが雪崩れ込み、阿鼻叫喚の地獄絵図になっていてもおかしくない。それにも拘わらず、街への被害はまだ少なかった。
「あら、あまりいい顔色ではないですね。何かありましたか?」
「母さん! ちょうどよかった! 今、大変なんだ!」
戦いが近いということもあってか、服装が普段と違うビクトリアが杖を片手にメリッサを伴って現れた。
伯爵とクレアの顔を交互に見ながら近づいてくる。表情から何か良くないことが起きたと推測できたのだろう。ビクトリアの顔も若干強張っているように見える。
「サクラ、さっきの説明をしてくれる? 後、ユーキも補足できそうだったら言って!」
「うん、わ、わかった」
「え、俺も?」
クレアに言われて二人は進み出ると伯爵とビクトリアに説明を始めた。
十二支という方角や割り当てられた獣を通じて、何かしらの大きな魔法が発動するのではないかと言う考えを聞くと、ビクトリアは意外とすんなり受け入れた。
「なるほどね。あちらの国の占星術とかそういうものの応用かしら?」
「信じてもらえるんですか?」
「えぇ、こちらにも似たようなものはあります。ただ、似ている部分もあれば、違う部分もある異国の魔法。解析するには時間も資料も足りないとなると、打つ手は限られるということよね。一見、結界には異常なし。そうなると城壁が壊れたようには思えないし、どこからともなく出現したシャドウウルフと関係があるのかもしれないわね。実際に見て見ないことには何とも言えないかしら」
頬に手を当ててビクトリアがため息をつく。流石に大魔法使いといえども、広範囲の街の中をすべて把握するというのは無理のようだ。
何かわかることはないかとユーキが魔眼で街全体を見回す。遠目で見ると対象物が多くなり、光が混ざり合って判別できない。それでも、その光景の中に気になる物を見つけてしまった。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




