シャドウウルフ防衛戦線Ⅵ
サクラが悩む姿にユーキは何か手掛かりになることはないだろうか、と自身も考えを巡らす。
「シャドウウルフの好物があるとか?」
「あいつら肉なら何でも食べるぞ」
そうとは言っても知識の乏しいユーキでは、いい考えなど浮かぶはずもなく。サクラと揃って首を捻り出してしまう。
行き交う人たちの邪魔にならないように端へ端へと寄って歩くが、冒険者と言う名の街の住民全員がいると言っても過言ではない中なので、ボーっとしているとぶつかってしまう。
「おい、こんなところで考え事とは余裕だな。頭に回す分を攻撃に回した方がいいぞ!」
「すいません。どこか手薄になってる場所はありますか?」
「城門から離れれば離れるほどシャドウウルフも減るからな。もしかすると、あっちの奥の方とかは人もいないが、はぐれた奴が十匹くらいはいてもおかしくないだろ」
「ありがとうございます」
「おう、気を付けろよ」
見た目は荒くれ者のようにしか見えないが、親切にも場所を教えてくれたので、言われた方へと向かう。
城壁の下から勢いだけで登ってくるシャドウウルフもいるが、冒険者たちにたたき落され、一匹一匹と命を落としていく。ユーキたちのいる場所と下とでは正に天国と地獄のような状況だ。平然と歩いている自分が正気なのか疑いたくなる。
「考えても浮かばないものは仕方ないし、言われた場所まで行ってシャドウウルフがいなかったら引き返そう」
「そうだな。まさか、冒険者がこんなに街にいるとは思わなかったぜ。何かここらの領地でおいしい話って合ったっけ?」
「そういえばメリッサに近くの森で珍しい素材が発見されたって聞いた。何でもダンジョンにしか落ちてないようなものだったらしくて、それが噂で近くの街や村の冒険者が一斉に集まったらしいね」
「へー、ただの落とし物なんじゃねえの?」
マリーが疑ってかかるが、クレアは首を横に振った。
「何でも宝箱に入ってたらしいんだよね。どう考えてもおかしな話なんだけどさ」
それで冒険者が増えていたのは、この街にとっては幸運だろう。城壁があるとはいえ、冒険者が少なければ万が一のことがあったかもしれないのだから。
だんだんと冒険者の数が少なくなり始め、歩きやすくなってきた頃、ギルドの服を着た人間が二人で話をしている場面に出くわした。
「おい、蓮華帝国の奴らがかなり接近してきているらしいぞ。正面から攻城兵器を堂々と運ぼうとしているみたいだ」
「まじかよ。そんなものまで持ち出して来たのか?」
「他にも騎馬隊は川下に沿って南下、数は数千。それには及ばないが、多数の虎を従えた部隊が北上を始めたらしい」
「街の中に入られたら最悪だな。城壁だけは守り通さないと……」
その言葉を聞いて、サクラは顔を上げた。
誰も気付いていなかったが、その顔は少しずつ青ざめて行く
「まさか……その組み合わせって……!?」
――――同時刻、蓮華帝国国境付近。
「高将軍。兵の移動を開始しました。明日には目的地に着くかと思われます」
「よい。実によい。作戦は順調だな」
攻撃目標都市であるローレンスの街を睨みながら、部下の報告を聞く男がいた。顔にはいくつかの傷が刻まれ、頬には若干のたるみが見られる。年は若くはないが、その体は遥かに若い部下の体よりも鍛え上げられている。それは将軍である前に一人の兵であることを示していた。
「道術士が上手くやって『戌』を誘き出したようだ。後は配置に着くだけで街が落ちる。我々はそれを見届けた上で進むだけでよい」
「しかし、それだけであの街の結界をどうにかできるのでしょうか?」
「できれば戦い易くなり、できなければ戦い難くなる。だが戦いは常に難しいものだ。別に気にすることではない」
無精ひげを擦りながら、高将軍はニヤリと笑った。
「ファンメル王国の英雄アレックスと大道術士ビクトリアよ。我らの秘策、拠点堕としの大道術『三合火局の陣』を受けて見よ」
高将軍は大声で笑いながら手綱を振るうと、ゆっくり前進を開始した。
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