シャドウウルフ防衛戦線Ⅴ
体を休めた後、西門の城壁に来たユーキたちは、冒険者たちがどのような状態か心配していた。
「数時間、矢を撃ったり魔法使ったりしていたら疲れるよな、普通」
そう呟いたマリーだったが、彼女の表情は呆れ顔であった。その原因は目の前の冒険者たちにある。
「おっしゃあ! 金貨二十枚じゃ! もっと狩るぜぇ!」
「ちょっと! それ、私が仕留めたやつでしょ! 勝手にカウントしないで!」
「違いますー。額に刺さってるのは俺の矢ですー。矢に巻いた布が見えないんですかー?」
至る所で歓喜と怒号が飛び交いながらも、どこか和気藹々としている光景はシュールさすら感じさせる。
あらかじめ、矢のシャフトに巻かれた布で誰が仕留めたかわかるようにしてあったり、魔法使いは射撃エリアを割り当てて、そこで死んだ魔物を数えたりすることになっているようだ。
ギルドの職員も何人か来ており、万が一の数え間違いがないかを確認したり、返しとロープがついた槍を打ち込んで死体を回収したりと大忙しのようだ。
「なんか、私たちの考えていた以上に大丈夫そうみたいだね」
「そうだな。何か、こう……お邪魔感がする。お金の力って偉大だな……」
冒険者たちの目が金貨のようにギラギラ光っているように見えて、ユーキは苦笑いを抑えきれない。人の欲は果てしないものだが、それがここまで上手くいくとは伯爵も思っていなかっただろう。
「うーん。もしかしたら手薄になっているところもあるかもしれないし、登ってみて、一通り見ていこうぜ?」
「ま、それくらいならいいでしょ。大丈夫そうなら、冒険者たちの分け前を減らすわけにもいかないし、帰るしかないけどなー」
クレアもマリーの提案に頷いて城壁へと昇り始める。
階段を登りきるとその向こうには辺り一面、シャドウウルフの死骸で埋め尽くされていた。地面は魔法で吹き飛び、焼け焦げ、矢が突き刺さり、正に戦場跡といった所だ。
それでもシャドウウルフは後から後からやってくる。千匹なんて生ぬるい、下手をすれば総計一万を超える大軍勢と錯覚しそうだ。
ユーキも流石に言葉を失った。バジリスクなどの危険生物と戦う恐ろしさばかりが際立っていたが、戦争という名の恐ろしさを疑似的に体験しているようだった。
倒れ伏しているシャドウウルフの体一つ一つが人間に置換して考えると、それだけで気持ちが悪くなる。
「私たちがあとちょっとでも遅れていたら、この中に取り残されてたんだと考えるとちょっと怖いね」
「そうだな。シャドウウルフに食われるにしても、誤射を受けるにしても、どちらもまともな姿じゃ残らない」
ユーキは何か情報がないかと魔眼を開くが、息絶えたシャドウウルフには光は宿っておらず、見えるのは魔法の光と、地面や木々の光くらいのものだった。
てっきり、また黒や紫と言った毒々しい色が見えるかも、と警戒したユーキは拍子抜けしてしまう。
迫ってくるシャドウウルフは毛並みが黒いが、立ち上るオーラはむしろ黄色味がかっていて、瞳だけが真っ赤に光っているようにも見えた。
「でも不思議だよな。あっちにあるダンジョンってネズミくらいしか出ない、ショボいダンジョンなんだよ。騎士団にとっては良い訓練かもしんないけどさ、一般人にしてみたら傍迷惑な代物だぜ」
「せめて、宝物があれば、いいのに……」
アイリスも頬を膨らませているが、サクラが思い出したように呟いた。
「そういえば、私たちが最初にシャドウウルフに襲われた時も大きなネズミが逃げてきてたよね? もしかして、あれも氾濫の影響だったのかな?」
「ダンジョンのネズミと言うとビッグラットね。あの大きさはちょっと無理かも」
「でも氾濫とは言うけど、何でわざわざこっちに来るんだろう?」
サクラは唸って考え込む。
確かに、氾濫であふれてしまった場合、近くの街に襲い掛かることもあれば、バラバラに拡散することもある。
それにも関わらず、ダンジョンから離れている街へと集団で攻めてきたことには、何か理由があるに違いない。会話の雰囲気からサクラがそう考えているように勇輝は思えた。
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