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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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シャドウウルフ防衛戦線Ⅰ

 街が見えてくると城壁の上には弓兵や魔法使いが並び、城壁周りにも落とし穴や杭で作られた防御網が張り巡らされているのが遠目で見えた。


「それで! 後何秒で着く!?」

「少なくとも、あと数十秒は必要だ! 話しかける暇があるなら、さっさと後ろを何とかしてくれ!」


 フェイの叫び声に応えるようにユーキはガンドを放つ。

 既に馬車の後方数百メートルにはシャドウウルフの群れが追ってきていた。中にはサクラたちが倒したような通常の個体よりも大きなものが存在している。


「ガンドよりも火球で放った方がいいかもな、これ!」

「もう少しで城壁の魔法使いが援護できる範囲に入る! 後先考えずに撃ちまくって!」


 ユーキのガンドが魔法の詠唱の合間を埋める。三本目のポーションを飲み干しながら、ユーキは指先に魔力を込めた。


「ひ、必要なら、前みたく連射できないこともないですけど!?」

「やめとけフラン。ここでお前が倒れたら手数が少なくなって追い付かれる! 確実に近い奴から仕留めて逃げきることだけを考えるんだぜ」

「後のことは城壁の人に、お任せー。でもかなり近づかれてるからっ! 『逆巻き、切り裂け。汝、何者にも映らぬ一振りの刃なり』」


 アイリスが杖を一閃しながら詠唱すると、群れを抜け出して近づいて来ていた三匹が刀でも振るわれたかのように上下に両断された。


「金属でなければ、何とか切れる、ね」


 魔力を含んだ風によってさらに土埃が巻き起こり、後続のシャドウウルフの進行が遅くなる。

 加えて煙玉や臭い玉を駆使しているが、迂回してでも追い続ける執念深さに、思わずユーキは舌打ちをしたくなった。

 流石に荷台を曳いている馬と違って、シャドウウルフは身一つで攻めてきている。機動力の差を何とか魔法による攻撃で補っていたが、それも限界であった。

 シャドウウルフは馬車の横を通り過ぎ、馬の足へと噛みつけるところまで迫る。


「近寄るなっ!」


 フェイが用意していた臭い玉を顔面目掛けて投げつけると、それを横に避けてすぐに再接近する。

 馬も必死で逃げているのだが、ついにその足へとシャドウウルフが飛び掛かった。


「おっと、隙あり!」


 しかし、そこは前方を走る冒険者の攻撃範囲。弓を握った男が揺れる馬車の上にも関わらず、シャドウウルフの額を射抜く。ユーキはその光景を見て、別の意味で冷や汗が流れそうになった。何が恐ろしいかというと、弓であるにもかかわらず、弾道が銃弾のようにまっすぐなのだ。言い換えるならば、放ってから当たるまでが早い。

 A級冒険者になると聞いていたエルフの弓使いも正確無比でかなり早い弓ではあったが、それに比べても早かった。


「あの弓、絶対ダンジョンの宝箱から出たやつだ。ああいうのあたしも欲しいんだよ、ねっ!」


 クレアが荷台に積んでいた修理用の角材を投げつけて場所を誘導し、詠唱を完成させてシャドウウルフを燃やしていく。馬車の周りには既に十匹近くが集まり、流石に応戦するのも間に合わなくなり始めていた。


「だったらこれで!」


 サクラが杖を振るうと、今度は馬の両脇を一メートルに満たない岩の槍が突き出た。

 動いている上に無詠唱という神業だけあって、シャドウウルフも飛び越えることも避けることもできずに顔面から突っ込んでいく。


「流石っ!」

「ありがと。だけどまだたくさん来る。キリがないよ」


 サクラが後ろを振り返って、顔を険しくする。シャドウウルフがひしめき合って、地面が黒一色に染まっているようだった。同じ場所に一分と留まれば、あれに飲み込まれると考えると平常心ではいられない。

 サクラの杖がカタカタと揺れ始める。そんなサクラの肩をユーキは叩いて、必死に笑みを浮かべた。


「大丈夫、あと少しで門まで辿り着ける。ここが頑張りどころだ!」

「そうだね。ここまで来て諦められないね」


 二人が指と杖を構えなおした瞬間、馬車の後方数十メートルに火球が着弾した。


「援護射撃が始まった! あと少しだ!」


 フェイが前を見ながら報告する。ユーキたちの頭上をいくつもの火球が流れ星のように追い越していった。


「よし、これで何とか――――!?」


 安心したのも束の間、いきなり馬車が急ブレーキをかけ、荷台から前方へと投げ出される。

 空中を舞っている間、ユーキの目に飛び込んできたのは、限界を迎えて転倒した馬の姿だった。

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