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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第2巻 漆黒を歩む者

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這い寄るものⅡ

 ――――翌日。

 学園の補講を終えて、あくびをしながら荷物を片付けていると、サクラが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「どうしたの? なんか顔色が悪いみたいだけど」

「いや、ちょっと昨日はかなり本を読んでさ。疲れたから早く寝た分、早く起きたのはいいけれど、そのせいか、変なタイミングで眠くなっちゃって」


 肩を軽く回しながら、首を左右前後に動かす。そんな様子を見上げながら、アイリスは呟いた。


「寝不足は、健康の大敵」

「体をしっかり動かして疲れさせれば今日は寝れるだろ。つーか、前も寝不足だった時があったんだから、気を付けろよな」


 サクラたちと会話しながら教室を出る。いつも通り昼飯を食べるつもりだが、ユーキは午後の薬草採取は休もうかと悩んでいた。そんなユーキにサクラが声をかける。


「そうだ。知ってる? 外でオークが出たって話」

「あぁ、何でも二体のオークが森の中から出てきたって話だろ」


 マリーが思い出したようにサクラへ応える。ユーキとしては、その話は聞いたどころか実体験だ。あまり大きな声で言いふらすことでもないが、バレたら何を言われるかわからないので黙ったまま二人の話に耳を傾ける。


「冒険者ギルドの人が、一人で倒したって言ってた」


 アイリスも知っていたらしく、会話に参加してくる。


「あぁ、そういう話は聞いたことがあったような気がするな。薬草採取依頼ばかり受けてる俺には、無縁の話かもしれないけど……」


 ユーキが関係者であることは三人の誰もわかっていないらしい。ユーキはほっと一息つく。

 そもそも、本来ならば隠す必要はないのだが、できるだけ目立ちたくないという方が優先されるので仕方がないことではある。加えて、先日のグールを倒した後は、三人にも迷惑をかけた。あまり心配を掛けさせたくない気持ちもあった。尤も、女子三人を侍らせている男子ということもあり、十分目立ってはいるのだが。



「むむむ……、あのぽっと出の新参者め……」

「誰か一人ならいざ知らず、三人も侍らせるとは何事か……!」

「あぁ、俺も彼女欲しい」


 いくらか間違った想像も入っているが、概ね男子生徒の間では、このような会話がなされていた。

 こういった学園に通う子女は貴族が多いので、その気になればいくらでも可愛い女子やイケメン男子を見つけることは可能ではある。しかし、それとこれとは話が別。やはり、女子といちゃついている男子には嫉妬せずにはいられない、ということだろう。


「……くだらねぇこと言ってねぇで、さっさと課題終わらそ」

「そうだな。腹も減ったしな」

「彼女欲しいわー」


 ただ、嫉妬心に突き動かされ続けて暴走しない辺りは、精神力を鍛えられた魔法使いか。すぐに現実的な活動へと自分を動かし始める。因みに、三人目の男は他の二人に抱えられたまま食堂へと連れていかれた。

 それを微妙に聞いていたユーキとしては、苦笑いをするしかない。その間にも三人の会話は思わぬ方へと進んでいた。

 やれ、筋肉ダルマが素手で殴り合っただの、エルフが魔法で爆発四散させただの言いたい放題だった。ユーキとサクラはそれを聞きながら頬を引きつらせるばかりだ。


「いやー。絶対そうだって。顔が陥没してたんだぜ。殴りあったなら真っ先に狙うのは顔だろ!」

「そんな人間がいるなら、とっくの昔に、みんな知ってる。それよりも、一人で戦うことができるなら、エルフの魔法使い、というのが、納得できる」


 どちらも一歩も譲らず、互いの意見を主張する。真実を知る身としては、自分を筋肉ダルマやエルフにされて複雑な気分だ。二人をサクラとなだめながら昼食を食べる。


「うーん。正直、どっちもありえなそうだけどねー」

「俺も、そんなでっかいムキムキの人やエルフは見たことがないなぁ」


 そう言って、一度停戦協定として昼食中は話を変えることになった。結局行きつく先としては最近のスイーツ事情や可愛い服の話だ。そんな話をしていると、アイリスの視線にユーキは気付く。


「ん? なんだ、俺の顔になんかついてるか?」

「ユーキ。服、変えた?」


 その言葉に他の二人も頷く。


「本当だ。前まではこんな上着着てなかったのに」

「あぁ、あたしは気づいてたぜ。まだ暑いのにコート着てるなんて、どうしちまったのかと」


 ユーキが着ているのは先日、刀や鎧を新調した時に立ち寄った服屋で購入したコートだった。どうやら魔法的な加工がされているらしく、暑かろうが寒かろうが一定温度まで調節してくれる機能がある。

 最初にこの街で暮らすための最小限の服を揃える時には、金に余裕が無くて購入を断念した。しかし、サンプルにしてはかなりの出来であったことも事実。金に多少の余裕ができたからこそ、一年を通して私服にも戦闘服にも使えるのは、ある意味で貴重だ。


「うわぁ、すごい肌触りがいい」

「あれだよな。コートという割にはすごい肌にぴっちりした感じだな。戦士の着るインナーほどじゃないけど、かなりしぼってある」

「もしかすると、魔法的加工もされてる? 対魔法処理とか」


 身を乗り出してさわさわと服を触られるが、マリーも言った通り二の腕当たりは肌に張り付きそうなくらいだ。その為、直接肌を触られるよりもぞくぞくして、正直なところむずがゆくてたまらない。


「まぁ、今は昼食だし触るのは後にしようか。お金が一気に入ったから装備とかも新調したんだ。その中の一つに試作品があったみたいで、こうやって試してるってわけ」

「ほう、ってことは錬金術師の作品か? もしかすると思った以上の掘り出し物かもしれないぜ」

「なんでさ?」


 マリーはパンを頬張りながら、もう一方の手の人差し指を立てる。


「錬金術師の試作品は、しっかりモニターをして意見を出すと、次の同類作品も渡されることが多いんだ。先行投資にしては大きすぎるメリットがあるけど、そういう物に出会う機会が少ないから、あんまり知っている人はいないけどな。まぁ、あたしの親が言ってたことだから間違いないとは思う」


 アイリスは知っていたようだが、ユーキとサクラは驚きの声を漏らす。ユーキが考えるよりもはるかにお得な買い物だったようだ。錬金術師の試作品と確定したわけではないが、店員が魔術師ギルドの人間からの提供を受けたと言っているので、その可能性は高いだろう。

 先日のオークとの戦いで外に出る気が無くなっていたが、もう少し力をつけて戦いたいという欲望も出始めたところだ。戦闘でどれくらい役に立つかも調べながら有効活用させてもらう気でいた。


「そうか。じゃあ、ちょっとモニターとしてしっかりやらないとな」

「もしかすると、オーダーメイド品を作ってくれるかもしれないぜ」


 マリーが笑みを浮かべるので、ユーキも笑みで返す。傍から見ると悪い商談をしている場に見えかねない。若干、サクラとアイリスも引いている。アイリスはあからさまなジト目をするくらいだ。


「まぁ、冗談はこれくらいにしておこう。そういうわけで、今後は討伐依頼も少しずつ受けていくつもりだよ。もちろん、身の丈に合った範囲でね」

「あんまり無理しちゃだめだよ? 前みたいになったら、許さないから!」


 サクラの言葉にユーキは頷いた。生活するだけなら、今まで通りでいいのだ。冒険をしすぎないように気を付けるだけのこと。ただ、ユーキの中にはもっと強くならなければいけないという気持ちもあった。それがいったい何から来る衝動なのかユーキ自身は気付いていない。


「無理はしないようにするよ。命あっての物種、というし」

「おー、諺。和の国の言い回しって、独特」


 アイリスはなぜか諺に反応しているようだが、ユーキは構わず話を続けた。平日は今まで通り、土曜日は依頼で日曜日は完全休日。そんな形で過ごすつもりだと三人に言って、都合が合えば平日の授業終わりや日曜日に遊ぶことにしようと決めた。


「じゃあ、今度の休みには新しくオープンしたカフェに行こうよ。他のクラスの子がとってもおいしかったって言ってたの」

「うん。いいね。俺も最近、そういう店に行ってないから、ちょうどいいかも」


 ユーキはサクラの提案に頷くが、次のマリーの発言を聞いた瞬間、渋い顔になってしまう。


「あたしも賛成。新しい物には、とりあえず突撃ってね」

「……アイリスミサイルをぶち込んだ時も、そんなノリだったな」


 マリーとアイリスの衝撃の出会いを思い出して、ユーキはため息をつく。この何でも楽しければいい雰囲気は嫌いではないが、未だに隙さえあればアイリスを投げてくる謎のコミュニケーションだけは、ユーキもうんざりしていた。最近は革鎧を学園内でもつけたままの時もあるので、アイリスへのダメージも増加している。初めて革鎧に頭をもろにぶつけた時のアイリスの涙目には、ユーキが罪悪感でノックアウトされるところまで行きかけた。

 席を立ちながらユーキは苦笑する。


「もう二度と、あんな顔は見たくないからな」


 涙目のアイリスをあやした時を思い出しながら、同じように頭を撫でる。アイリスはくすぐったそうにしながら、ユーキにサムズアップした。


「大丈夫、タイミングはつかんだ。次からは対物理障壁を使った後で突撃する」

「あぁ、それをやめるという選択肢はないんだな」


 がっくりと肩を落としたユーキを見て、サクラとマリーの笑い声が響いた。どうやら、これからも学園にいる時には、常に警戒していかなければいけないようだ。

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