卵返却作戦Ⅵ
不意にワイバーンは顔を地面すれすれまで下げると、両の翼もぺたりと地面につけた。
その姿はまるで土下座をしているようにも見えるし、飛び掛かろうとしている獣のようにも見える。
「さて、どっちだ……!?」
ユーキは震えそうになる右手を左手で抑える。
この距離で攻撃されようものなら、お互いに無事では済まない。そんな中でワイバーンとの睨み合いが続くが、不意にユーキはその瞳が自分に向いていないことが分かった。
その視線の先にはフランがいた。しかも、もう一度見直すとその瞳は僅かに揺れ動き、動揺しているようにも見える。
「あちらに戦う気はないようですね……。恐らく、先程の一撃でフランさんを格上と認識したのかもしれません」
「それなら後は帰ってくれるように説得できればいいんだけど、言葉が通じないからなぁ……」
下手に刺激をすると、それはそれで死に物狂いで襲ってきそうなため、ユーキたちは迂闊に動けない。
『なんだ。アレに帰れと言えばいいのか?』
「あぁ、そうなんだけど……って、え?」
フランから野太い声が響き、驚いて目を向ける。
しかし、驚いているのはフランも同じで左右に体を向けて辺りを見回すが、どこにも声の持ち主は見当たらない。
辺りを見回していると急に全身を殴られたような感覚に襲われた。遅れて、巨大な咆哮が鳴り響いた空気の振動が体全体を襲ったのだと気付く。あまりの大きな音に耳が音を上手く捉えらていないことがわかった。
状況だけは把握しようとワイバーンの様子を見る。既にワイバーンは空へと飛び立っていた。呆然と飛び去る姿を見送っている内に聴覚も戻り始める。
「今の大きな声ってまさか……」
サクラが呟くとフランの胸元から声が響いた。
『どうやら上手く行ったようだな。久方振りに夢から覚めてみたら同族が大変そうだったので手を貸したが、余計な世話だったか?』
「もしかして、あなたは地下にいたドラゴンの……?」
『うむ。ただお主らに魔力の籠った宝石を渡すのでは面白くなかったのでな。魔力を介して外の様子を見れるようにしておいたのだが、このような使い方もできるとはな。片手間に自分でやってみたとはいえ、こんなことに巡り合うとは、やはり長く生きてみるものよ』
満足そうに笑うドラゴンの声が響くが、マリーやフェイは気が気ではなかった。
あの殺されるかと思ったドラゴンがルビーを通じて、監視していたようなものだ。何か機嫌を損ねでもしていたら、自ら地下を吹き飛ばして出てくることも有り得る。
『まぁ、即興で作った魔法故、そこまで長持ちをしないのが難点といった所か。先程の咆哮で大分魔法術式が損耗しているから、もうすぐ使えなく―――だろ――』
少しずつドラゴンの声に雑音が混ざり始める。
それでも上手く調節しているのか、辛うじて言っていることは聞きとることができた。
「あまり石の魔力を使うと、せっかく助けられた吸血鬼を困らせることに―――。こちらとしては、同族を助けられ――――良しとし――――。それでは、保持者よ。また会おう」
声が聞こえなくなってから十秒ほど、フランを中心に沈黙が場を支配した。
何とかユーキは最初に声を出すことに成功する。
「また会おう、って。あのドラゴン。人と会うのは嫌なのでは?」
「ユーキ、腹を括れ。僕は君の犠牲は忘れない」
「フェイ! そりゃ、ないだろ!」
ユーキがフェイの肩を後ろから掴んで前後に揺する傍ら。クレアはマリーへとドラゴンと出会った経緯を聞き出し始める。
そんな中で前方から声がかかった。
「お前ら無事かー!? 大丈夫なら、今の内にどんどん進むぞ! 早くしないとシャドウウルフの群れが来るかもしれないぞ!」
煙玉を投げていた内の一人が腰を抜かしながらも呼びかけていた。
逃げることもできたはずだろうに、最後まで付き合っていたのはB級冒険者としての矜持なのかもしれない。
フェイが片手を上げて応えると前方の馬車も動き始めた。
まだ、問題は二つ残っている。シャドウウルフの大群と蓮華帝国の大軍を退けなければならないのだ。
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