卵返却作戦Ⅱ
馬車が二台、森の木陰に寄せられると、荷台の後ろから卵をもってクレアが飛び出た。
卵の大きさは縦が五十センチほどもある大きさで、クレアが両手に抱えて何とか運べるほどだ。幸い、重さは身体強化を施さなくてもよい程度である。
もちろん、そのまま運んでは臭いなどでばれる可能性があった。先日倒したシャドウウルフの皮を使って包み込み、簡単にはわからないようにしている。
その後に、サクラとマリーが続き、ユーキが最後尾を務めた。
馬車からはアイリスとフランが杖を握って待機をしている。更に後ろの馬車では御者台にいるリーダー以外が馬車を影にして何か箱の中を漁っていた。
「とりあえず俺たちは、あのガキどもの撤退を援護すればいいわけだよな!? わかったら、ほら、お前もこれ持て!」
「えー、何で私までやらなきゃいけないの? 魔法でいいじゃなーい」
「馬鹿野郎。ワイバーンに対抗できるほどの装備、まだ揃ってないんだから我慢しろ!」
微妙にユーキのところまで聞こえる声に、お願いだから足を引っ張らないでくれ、と思ってしまう。
後ろを振り返りたくなる気持ちを抑えて前方の開けた場所を見ると、馬車から百メートルほど離れた場所でクレアが上空を窺っていた。
「距離はそんなに離れていないね。多分、野生の勘って奴かな。これ以上アイツがここを離れそうにはないかも……」
上空を大きくゆったりと旋回し続ける姿が見える。一分ほど息を潜めてみたが、同じところをグルグル回るばかりで、離れる気配がない。
「サクラ、マリー、あんたたちなら木よりも上の部分に岩の槍をゆっくり出すくらいならできるはず。魔力の消費が大きいけど、ポーションを飲めば行けるわね?」
「大丈夫です」
「任せとけ」
右手に杖を左手にポーションを握っていた二人は顔を見合わせると一気にポーションを飲み干した。
空の瓶を腰のベルトに付けたポーチにしまうと、杖を地面へと向けて詠唱を始める。
「ユーキ、一番危険なのはこの魔法が完成した直後だ。いくら臭いを誤魔化すために薬を塗っても、臭い玉を使ってもバレる時にはバレる。その時に頼りになるのはあんただからね」
クレアが地面へと卵を置くとサクラたちの後ろへと下がり、ワイバーンの動向を探り続ける。
その間にも詠唱は完成し、少しずつ卵を傷つけないように岩の先端が窪んだ状態で持ち上げ始め、徐々に高さを増していく。ちょうどユーキの身長を超えたあたりで、上空のワイバーンの視線がユーキたちのいる辺りに向けられた。
「まずい、気付かれ――――」
クレアが言い切るよりも早く、二発の魔弾がはるか遠くの平原に着弾し、土埃を巻き起こす。
ユーキのガンドに釣られ、ワイバーンが首をそちらの方へと向けて飛んでいく。
「これで後十秒くらいは稼げる。行けそうか?」
「多分、ぎりぎり」
そうしている間にも岩は隆起し、やがて森の木陰から姿を漏らし始めた。
ワイバーンがユーキの破壊した地形の真上に差し掛かったところで旋回を始める。土煙が晴れるまで数秒。姿を見られない内にユーキたちは馬車へと走り出す。
「あ、アレで大丈夫かな? ワイバーンに気付いてもらえると良いけど」
「気付くさ。あいつらの鼻はよく効くからな」
クレア、マリー、サクラが馬車へと乗り込み、ユーキが最後に足をかけた瞬間。天空にワイバーンの叫び声が木霊した。近くの木々からは小鳥が飛び去り、魔物でも何でもない小さな小動物は、声のした方角から逃れようと、一目散に逃げて行く。
それは馬車の馬も例外ではなかったらしく、大きく前足を上げて嘶くとそのまま走り出してしまった。
「うわっ!?」
完全に体を乗せていなかったユーキは、背を仰け反る形で荷台の外へと放り出される。
腕を振り回して戻ろうとするが掴むべきものは何もなく、空を切るばかり。そのまま背中から叩きつけられるかと思ったユーキの背が空中で止まる。
「ばっか、お前、何やってんだ」
「ユーキさん、早く乗って!」
幌を片手に掴み、身を乗り出して左手を握るマリーと床に這いつくばりながらも左足首を捉えているサクラがユーキの目に入った。
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