脅威拡大Ⅳ
ギルドマスターが頭を抱える傍らで、ユーキは自分が蓮華帝国だったら次に何を仕掛けるかを考えた。
「(川を挟んだ城壁は厄介だが、冒険者が減る分攻めやすくはなる。だけど被害が大きくなるから、もう一手欲しい。例えば、城壁が崩れるとか、城門が開いてしまうとか)」
いわゆる内部からの手引きをする人間がいるのではないかと考えてしまう。逆にこれ以上、行動がないということはワイバーンに結界を破壊してもらうことを考えているのだろう。
しかし、ユーキの魔眼からすると自分の結界と比べてはるかに分厚いように見えた。そうそう破壊されないようにも見えるので、何か手を打ってくるはずだと予想する。
「ワイバーン。倒したら、駄目?」
「ダメじゃないが、倒すとなると相当な被害が出るぞ。やるならせめて火が燃え移らない場所で戦わないといけないからな」
アイリスの疑問にギルドマスターは即座に答える。
やはりワイバーンのブレスによる引火は、街だろうと森だろうと重大な被害をもたらすからだろう。
「私たちの魔法で、何とかならないですか?」
「ワイバーン討伐は最低でもB級パーティ二つ分。大体九名から十二名で行うのが一般的だ。何せ、空を飛んでいるワイバーンを地面に叩き落さなきゃならないからな。逆に言えば叩き落してしまえば、倒すのに五人もいらないだろう」
「私は、マリーの故郷を守りたい」
珍しくアイリスが自分の意思を表明する。それに驚いたのはマリーだ。即座に首を横に振る。
「いやいやいや、流石に飛竜種は無理だって、シャドウウルフにだってケガ人が出かけたんだからさ」
「そうね。自分たちの身の程を弁えないと、命がいくらあっても足りないわ」
その言葉にアイリスも視線が床へと落ちる。
「何か私たちにも手伝えることがあればいいんだけど」
「今できるのは伯爵に、この状況を知らせることじゃないかな? いざとなれば、伯爵とビクトリアさんが何とかしてくれそうだし」
「確かに、君の言う通りだ。伯爵なら一人で全部解決してしまっても、僕は驚かないよ」
フェイの言葉に苦笑しながらも、ユーキはギルドマスターへ振り返った。
「スイマセン。俺たちは、今から伯爵の下に向かいますが、何か伝えるべきことはありますか?」
「いや、今は時間が惜しい。こちらからも後で人員を送るが、君たちに任せてもいいか?」
「はい、大丈夫です」
「すまないな」
その言葉を背にユーキたちは部屋を後にする。
ギルドのホールを抜ける頃には、中にいた冒険者たちが稼ぎ時だと騒いでいた。
「ユーキさん……」
「俺たちが何とかできるのが一番だけど、勝手に動いたら迷惑がかかるのは伯爵だけじゃない。それに俺の体調も万全じゃないし、それはサクラも一緒だろ?」
「――――やっぱり、わかる? まだ少し、お腹が痛くて」
ユーキの魔眼は、サクラの放つ光がいつもよりも弱々しいことを見逃していなかった。
もし、ユーキも万全でサクラも問題ないようだったら、少しばかりアイリスに肩入れしていたかもしれない。
「だからこそ、今の俺たちができる最善をしなければいけない。って、偉そうなこと言ってるけど、俺にも何が最善なのかわからないけどな」
それを聞いて、サクラは一瞬呆然とした後、少し噴出した。
「何だよ。そんななにおかしなこと言ったか?」
「いや、ユーキさんって何でもできる凄い人だと思ってたけど、実はちゃんと私と同じようなことで悩んでるってわかったら、自分がバカらしく思えてきて」
「それは昨夜話した時も同じだったじゃないか。俺より強い人もいれば、頭のいい人なんてたくさんいる。サクラがそう思っているなら、それは只の勘違い。俺はただ運が良かっただけさ」
「……それは違うと思うなぁ」
サクラはユーキの横顔をもう一度、見つめた後、ぼそりと呟いた。
そんなサクラの後ろから手が伸びる。
「いやー、お姉さん聞いちゃったなぁ」
「く、クレアさん!?」
「今日は寝不足で起きれなかったみたいだけど、昨夜は何をしていたのかなぁ?」
「あ、そ、それは、特に何も……」
「いいのいいの。後でたっぷり聞かせてもらうからね」
マリーの悪戯する時と同じ顔でクレアがサクラへと迫る。
もはや逃げられない。昨夜のことを正直に話すしかないと覚悟を決めるしかないだろう。サクラとしては、不安に駆られて相談をユーキにしたに過ぎないが、クレアやマリーのフィルターを通せば、そういうことになってしまうのは目に見えていた。
頬が赤くなるのを感じながら、三度、ユーキの横顔を盗み見て、サクラは伯爵のいる城へと目を向けるのだった。
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