前兆Ⅵ
朝食を終え、マリーたち合流したユーキは街へと繰り出そうとしていた。
「サクラ、もうすぐ来る」
アイリスがトコトコと早歩きしながら報告してきた。
久しぶりに寝坊をしてしまったようで、少し寝癖がついた髪でサクラが城門まで走ってくる。
「ごめんなさい。みんな、お待たせっ!」
「悪いな。急に街に行きたいなんて言い出して。色々と疲れているはずなのに」
ユーキの言葉に何を勘違いしたのか、サクラの顔が赤くなる。
それを目聡くマリーが見つけて、サクラの横へと近づく。
「おやぁ? サクラさん。何か顔が赤いようですが、何かありましたかなぁ?」
「別に、昨晩には何もなかったから!」
「昨晩? あたしは何かあったか聞いただけなのにやけに具体的ですなぁ。ちょっと、お聞かせ願いませんか? というか話せーい」
一瞬でサクラの背後に回ると脇腹をくすぐり始める。走って来て、息を整えているところだったものだからたまったものではない。体を仰け反らせながらマリーの手を逃れようと暴れる。
その最中つつましやかな胸部が強調されて揺れたのをユーキは見逃さなかった。
『あまり、そういうのは感心しませんよ』
「(事故だ事故。俺はなにもしてない)」
ウンディーネからの批難の声があったが、ユーキは脳裏の片隅にある保存フォルダへキッチリとしまいこんだ。
「なるほど、ユーキも男の子ってわけだ」
「げっ」
普段と違いマリーのような行動をとる人物が、もう一人いたことを忘れていた。クレアがユーキの頬を抓りながら、城門の外へと引っ張る。
「さ、女の子の敵であるユーキは、あたしがエスコートしてあげるから、マリーもさっさと来なさーい」
「はいよー」
引っ張られるユーキの跡にアイリスとフラン、そしてフェイが続く。
「まったくこんな忙しい時に、何で僕まで……」
ぶつくさと文句を言いながらも着いてくるあたり、大方、伯爵にでも何か言われたのだろう。
頬を引っ張られながらも、その姿を見てユーキはオースティンの話を思い出していた。
「私の予想が正しければ、フェイは戦場に出陣するでしょう。ああ見えても、戦うのはそこらの兵士よりも上手いですから。またフラン様はビクトリア様のお付きとして戦場に出るかもしれません」
「何でフランまで!?」
「ここで防衛に貢献しておけば、彼女の立場も固まるでしょう。王国を守護する立場に回ったという事実があれば、過ごしやすくなるというものです。伯爵ならそこまで考えておられそうです」
坂道を下っていくと途中で木箱をいくつも詰んだ馬車とすれ違う。流石に危ないと感じたのか、クレアもユーキの頬を離した。
「とりあえず、ここをこのまま下ったら教会通りに出る。そのまま進むと冒険者ギルドや武器・防具の店が並んでいるから、そこに行くよ」
「私、王都以外のお店見るの初めてなので、ちょっと楽しみです」
「あんまり期待しないでね。辺境だから王都と比べるとどうしても劣っちゃうし」
フランの目の輝かせ方は商人の血が騒ぐからだろう。遠目でも見える教会の向こう側に見える大通りを見据えて、今にも駆けだしそうな勢いだ。
サクラも落ち着きを取り戻し、冒険者たちの姿見え始めるとあちらこちらから、色々な情報が聞こえ始める。
「聞いたか。昨日、でっけぇシャドウウルフが仕留められたってよ」
「マジかよ。でも、最近は北西の魔物が極端に減ってんだよな。よく、そんなデカい奴が育ったもんだ」
「一時期、騎士団がダンジョンどころか森の魔物狩りつくしたって噂だったもんな」
「最近、ネズミ型の魔物を見たって声があるけど知ってる?」
「あぁ? ここら近辺にネズミの魔物なんて出ないだろ? あいつらが出るのは決まってダンジョンの中か、薄汚い下水路くらいだ」
フランが露店で売っているものを物色している間、同じように道に停まって話をする冒険者の話が気になってしまう。そのまま話に耳を澄ませていると今度はマリーに耳を引っ張られた。
「おい。お前の武器を新調しに来たんだろ? フランのお勉強も終わったから、さっさと行くぞ。ついでに街の中を色々と案内するつもりなんだから、早くしないと日が暮れちまうぜ」
そう言って、マリーはユーキの背中を叩くと前へと進んで行ってしまう。数十メートルも歩くと、マリーは振り返って手を振り、左側の店中へと消えていった。
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