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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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前兆Ⅲ

「俺は王都に戻るよ」

「……どうして?」


 どういった感情か読めない声でサクラが問いかける。


「まず戦争になった時に統率の取れない人間や守らなければいけない人がいたところで足手纏いにしかならない。まぁ、もしかしたら魔法を放つだけならできるかもしれないけど、そんな状況になっている時点で陥落したも同然かな」


 正規兵の損耗を民間人で補い始める時点でかなり危うい状況だ。そもそも籠城戦を行うならば、それは援軍が来るまでの時間稼ぎ、王都からの援軍が望めなくなった時点で見捨てられた。或いは放棄したと考えるのが妥当だろう。何しろ、王女様の転移門の魔法で援軍をすぐに送ることができるのだから。


「だから敵が狙うとしたら、むしろ搦め手。例えば国内に潜ませたスパイを使って、マリーを人質にとるとかかな」

「そんな……!」

「そうすれば伯爵もここを明け渡す可能性が高くなる。無血開城で、何の被害もなく橋頭保を敵国内に構えられるわけだ。そう考えると、護衛を少なくさせるために国境近くに軍を置いたのも理解できる。兵を分散させるわけにはいかないからな」


 今回、伯爵は冒険者を護衛にすると言っていた。国が本気になれば、冒険者パーティの一組や二組を倒せる程度の間諜を潜り込ませることくらいできるだろう。

 最悪の場合、その護衛が蓮華帝国の息がかかった者だった、という可能性すら有り得る。


「つまり、俺に――――いや、俺たちにできるのは、あの三人の側にいて守ってあげることだ。まぁ、クレアさんには、もしかしたら守ってもらう側になるかもしれないけど」

「でもそうすると、フランさんだけここに残ることに……」


 問題はそこだった。貴族であるマリーとクレア、そしてアイリスは王都に戻らざるを得ないだろう。

 しかし、吸血鬼という体質があるため、フランは伯爵の管理下に置かれなくてはならない。そうでない場合は、宮廷錬金術師の下に行くことになるだろう。当然、そうなったときに以前訪れた地下の環境で幽閉されることになるはずだ。そう思うと気の毒などというものでは済まされない。

 薬草や何かの焦げる匂い、地下故にじめっとした空気。何より、あの狂気じみた男。正直、彼女をあんな場所に閉じ込めるわけにはいかない。


「それについては、また後で考えよう。何かいい案が浮かぶかも――――」


 そこまで考えた上でユーキは、一つ変なことに気付いた。


「なぁ、アイリスって貴族だよな?」

「う、うん。そうだと思うけど」

「ここに来たのは、マリーとクレアが伯爵に万が一があった時の為に、領地のこととかを引き継ぎするためなんだよね?」


 質問にサクラが頷くと、思わず首をユーキは捻ってしまう。


「じゃあ、アイリスも自分の親の所に行かないとまずいんじゃないか?」

「うーん。基本的に家は長男が継ぐものだから、アイリスにはお兄さんがいるんじゃないかな? だから、ここに来ても問題、ない……?」


 アイリスについては、よく考えてみると謎なことが多い。マリーと仲良くしていて、屋敷にもサクラが来る前から出入りをしていることを考えると、貴族の知り合いだったという可能性が高いだろう。

 ただ、サクラのような留学生の一般人とも仲良くなるような性格からして、アイリスが貴族でない可能性も否定できない。

 ユーキたちが分かっていることは、飛び級天才少女で悪戯っ子である、という点くらいだ。


「いろいろと明日確認をした方がよさそうだ」

「私も仲良くしてきたつもりだったけど、あんまりアイリスのことわかってなかったかも」

「とりあえず、今日は遅いし、俺がどうしたいかも参考になったと思うからさ。この辺でお開きにしようか」


 変なところで意気消沈をしてしまったサクラの肩を、立ち上がりながらポンっと叩く。


「ひゃうっ!?」

「えっ!?」


 いきなり声を上げて、体を仰け反らせるサクラにユーキもびっくりする。

 数秒、お互いに顔を見合わせ、ユーキは迂闊だったと気付いた。


「(そりゃ、こんな時間に自分から入ってきたとはいえ、男に体を触られたら警戒するよな……)」


 暗闇でわからないが、サクラの顔は真っ赤に染まっていることだろう。ベッドの近くに魔法石のライトがあったが、その存在を忘れていたことも痛手だった。


「サク――――」

「ご、ごめなさい。今日はもう戻るねっ! お、おやすみなさい」


 声をかける間もなく。サクラは扉の方へと駆けて行った。そのまま、ユーキの顔をみることなく、扉を閉める。


「……やっちまったか」


 頭を抱えたくなる気持ちを抑えて、ユーキは布団へと潜り込む。

 一瞬、サクラが座っていた場所の暖かさが足に触れて心臓が跳ね上がりそうになるが、頭の中に浮かぶ煩悩を振り払って、横になった。

 一方、扉の外ではサクラが胸に手を当てて、声が漏れないように深呼吸をしていた。


「私のバカッ! 何しちゃってるのよ。これじゃ明日、ユーキさんと会った時に話しづらいじゃない……。い、嫌なわけじゃないけど、まだ、そういうのは早いっていうか、そういう関係じゃないし……。あー、もう、ほんと、私のバカッ!」


 首を左右に振って、落ち着きを取り戻したサクラは、自分の部屋へと足を進める。この後、さらに自室で一時間ほど寝れなかったことが引き金になり、朝に寝坊をしてしまうのだった。

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