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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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前兆Ⅱ

 ――――その日の夜。

 ユーキはなかなか寝付けずに何度も寝返りを打った。


「戦争、ね」


 自分がいた日本では、少なくとも、生を受けてからは戦争に直接関わることなどない平和な日常だった。おいしいご飯を食べ、楽しく遊び、何事もなく眠ることができている裏で、多くの命が消えていたことは否定はしない。

 それでも、目の前に戦争が迫っているとなると、自分がするべきことは何なのか、この街はどうなってしまうのか、マリーやクレアは――――と自問自答して、思考が続いてしまった。

 手元にある腕時計が十時手前を示していた。そのまま時計を見つめながら考えていると、不意にドアがノックされる。


「どうぞ」


 ユーキはドアの方へと寝返り、少し大きめの声で返事をする。

 ゆっくりと扉が開くとサクラが顔を出した。


「少し、いいかな?」


 何事かとユーキが上半身を起こすと、入ってきたサクラがベッドの横に立つ。

 廊下には光源がいくつかあるが、部屋の灯りは全て消しているため、サクラの表情を窺うのは難しかった。


「まぁ、立ち話もあれだし、座りなよ」


 ベッドの端に座り直し、横を軽く叩く。サクラも頷くと素直にそこへ座った。

 座ってから十秒ほど、沈黙が続く。サクラは自分の膝辺りを見つめ、ユーキは目の前の空間とサクラの方へ視線が行ったり来たりと彷徨う。


「夜中に、ごめんなさい」

「いいよ、俺もなかなか寝付けなかったから」


 静かな空間で二人の声だけが響く。


「私、どうすればいいんだろう。マリーたちを置いて、この国を出て行くなんてできそうにない」


 奇しくもサクラとユーキの考えていることは同じだったらしい。自分たちはどうするべきなのか、その答えを見つけ出せずにいるようだ。


「楽観的に見るならば、伯爵夫妻がいれば大丈夫だとは思う。あんなに強そうな人はそうそういないと思うからさ。悲観的に考えると次にいつ会えるかはわからないし、それが生きているとも限らない、と言うところかな。前にも聞いた通り、蓮華帝国は強いんだろ?」

「どの国よりも兵の数が多いって聞いたことがあるの」


 戦闘に置いて戦力を考えるときに真っ先に考えるのは兵の数だ。数の暴力などと言う言葉もあるが、まさしくその通り。

 ただ一点、これを覆すには保有する武器の差がある。どんなに強い剣を持っていても銃には勝てないし、銃を持っていたとしてもミサイルには敵わない。

 この世界で言うならば、どれだけ強力な魔法が使えるかが重要になってくる。その点においては、伯爵側に分があるように思えた。


「蓮華帝国は魔法も強いのか?」

「ファンメル国の魔法とは違って、肉体や武器を強化する魔法が得意みたい。後は使い捨ての魔道具……呪符とかを使うことも多いんだって」

「そうなると、どれだけ接近を許さないで倒せるかが肝だろうな」


 ユーキが顎に手を当てて床を見つめる。

 伯爵は肉体の強化に全能力を割り振っているような人だ。逆にビクトリアは魔法を極めている。そう考えると、意外に分は悪くないように感じる。

 ただでさえ、攻め入るのには防御側の三倍の兵力が必要と言われるほどだ。加えて、時間が経てば経つほど、攻める側は食料などの問題も出てくる。


「そう聞くとこの戦い。よほどのことがない限り、負けないように思えるんだよな」

「でも、絶対なんてことはないでしょう?」

「そうだな。もし、こっちの戦力が一万人あったとして五万、六万人とか連れてこられたら、どうなるかわからない。ビクトリアさんの魔法がどれくらいの範囲と威力で、どれだけ出せるかによると思う」


 結局のところ、情報が手元にないため、想像でしかない。想像でしかないということは、結論もいつまで経っても出ないということだ。


「ユーキさんは、どうするつもりなの……?」


 ここに残るのか。それとも王都まで撤退するのか。或いは、サクラと一緒に和の国へと渡るのか。選択肢がいくつも浮かんでくる中、ユーキは一つの選択肢を選んだ。

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