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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第2巻 漆黒を歩む者

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騎士への道のりⅥ

 オークの始末後、冒険者ギルドでは緊急の依頼がいくつも出ていた。いわゆるオーク狩りの為の依頼である。この付近に中型の魔物は存在せず、今までコボルトやゴブリンがせいぜいであった。中型の魔物を探すならば、それこそ、数日は森や山を彷徨い歩いて、より深い所へと行かなければ見つからない。

 今回は被害が少なくて済んだが、実際は騎士団を動員して行うほどの案件だった。クレアとユーキは参考人として、ギルドにて聴取を受けることになったのも仕方のないことだろう。


「あーあ、全く今日はついてない。ゴブリン狩りがオークとの追いかけっこになるなんてね」


 クレアは首を左右に倒しながら、愚痴を零す。一時間とまではいかないが、それなりに長い時間は拘束されたのだ。ユーキも体中が疲労を訴えている。


「それよりも、だ!」


 ゴツンッ、とユーキの頭に衝撃が走る。視界に銀色の流れ星が見えた気がした。


「あのなぁ。時間稼ぎするっていうから任せたけど、倒してくるだなんて一言も聞いてないぞ! お前が思ってるよりも、危険な相手だ。いいか、本当だったら鎧ごとぺしゃんこにされて当たり前の相手だ。避けるのに専念するだけでよかったんだ。このアホウ!」

「あー。うん、悪かった。ちょっとばかり冒険しすぎたよ」

「当たり前だ。どこの世界に剣一つでオーク二体の首を狩ろうとする初心者がいるんだよ」


 クレアの怒りは、無茶をしたユーキに対するものであったが、同時にそれだけ心配していたことの裏返しでもある。少女を救って、いざ後ろを見ればついて来るはずの姿が何も見えないのだ。当然といえば当然だろう。衛兵や冒険者が早く到着したのも、クレアの必死の説得と人徳あってのことだった。


「まぁ、大した怪我もなく返ってきた挙句、ちゃっかりDランクの仲間入りしちゃってることに関しては、おめでとうくらいは言ってやらない訳にはいかないけど……」


 頭に振り下ろされたチョップは、今度は優しく肩へと置かれる。ユーキには、今回の件でDランクへの昇格が言い渡された。オーク討伐のお金も入ったものの、せっかく手入れを覚えた革鎧も壊れ、剣の方は切っ先がボロボロになってしまい、そこまでを入れると出費がかなりのものになるかもしれない。

 新調する鎧はクレアと出会った店、剣は少し欲張ってアラバスター商会に行くことにしている。


「ここからが、本当の冒険者としての活動だ。あたしと同じこちら側(スタートライン)へ、ようこそ。改めて、よろしくな」

「あぁ、ご教授よろしく頼むよ。クレア」

「まかせとけ、今回は後れを取ったが、それなりに戦えるところをいつか見せてやる」


 そう言って互いの拳をぶつけ合った。今後もうまくやっていけるかはわからないが、頼りになるのは間違いない。自分の宿泊先を告げて、一度別れることにした。また、機会があれば一緒になることもあるだろう。





 アラバスター商会に入ったユーキは真っ先に、ある場所へと向かう。それは刀の展示してある場所だ。

 一度、刀の存在を知った時から買いたいと思っていたのだ。金貨もかなりもらったので、どうせ買うならば故郷に縁のある品を使いたいというのは不思議な話ではない。尤も、あまり高いものは買えないので、安価な中から()()()()()()()()をある方法で見つけようと考えた。


(薬草でもそうだったんだ。こっちでも使えるはずだ!)


 そして実際に試してみたところ、効果覿面で思わずガッツポーズをとりそうになる。魔眼を開いて武器を見ていくと、そこかしこから光が立ち上った。安価――――といっても金貨数枚分で分類された――――の中から一際強い薄い青と白の光を放つ刀を見つけた。

 銘はなく、無銘とだけ札が置かれている。長さは二尺に届かないかなり短めの打刀で反りは二センチほどだ。薄い直刃の波紋が何とも言えない光の反射をしていて、吸い込まれそうになる。

 金額は無銘のためか。或いは刀という武器を購入する人が少ないためか。金貨一枚と原価割れを起こしているようだ。

 店員に声をかけて、試し切りができる場所に通させてもらう。広い裏庭へと通されると、大きめの丸太から、細い枝のような物まで様々なものが置いてある。ユーキはその中でもかなり細い枝を束ねて、腕くらいの太さにした物の前へと立った。何度か素振りをした後、袈裟懸けに振り下ろす。すると、すんなりと刃が立ち、綺麗に切断できた。

 日本男児としては、刀を持つことには一種の憧れに似た気持ちがあった。すぐに購入することにして、整備の方法と必要な道具一式を買い込むことにする。

 おそらく人が見たら百人が百人、気色悪いというだろう満面の笑みを浮かべて、ユーキは刀をベルトに差す道具を装着する。剣の形に合わせた四角形の金型や皮を巻いてつけることで、腰に装着する道具だが、何とか刀にも合う形があったようだ。

 気分が高揚したまま、ユーキは刀の鞘を指で撫でつつ次の店に向かった。

 向かう場所はクレアと会った、あの職人気質な筋肉もりもりの店主がいる店だ。入店すると同時に店主と目が合うが、そこには少しばかり落胆の色が伺えた。


「おう、坊主。まさか、昨日整備したての鎧を壊しちまったのか」

「すいません。オーク相手には少し難しかったみたいで」


 その言葉で、店主の顔色は落胆から少しばかり驚愕と喜びの顔に変わった。


「何だおめぇ。オークとやりあったのか。てっきり俺はゴブリンとやりあったもんだと思ってたのに。いや、細かいことはいい。ちょっと鎧を見せろ」


 そう言うなり、店主の親父さんは鎧を脱がせにかかった。鼻息が荒くなっているが、きっとそれはユーキではなく、別のことに興奮しているからだろう。


「うむ、オーク相手だとすると……このへこみ方は足か何かか。全力ではないが、それなりに強い衝撃だったみたいだな」


 革は元の形から戻らなくなり、ところどころに罅が入って割れ、裂けている。店主は何度か自問自答を繰り返した後、チラリとユーキの持つ刀に目をやった。そのまま奥の方に入っていき、大きな音を響かせること数分。奥から鎧を何着か持って出てきた。


「レザーアーマーの中でも、何度もワックスを塗り込んで硬化処理したもんだ。魔術師ギルドの奴も噛んでいる特殊ワックスによるコーティングだから対物理・対魔法性能も段違いだ。俺の趣味で作ったもんだが、お前なら使えるかもしれん」

「なぜ俺なんですか?」

「オーク相手にこの程度の破損で済むのは、動きを瞬時に読んで反対方向に跳ぶことができたからだろう。あいつらがちょっと足を振るだけでレザーアーマーなんて衝撃を緩和できずに内臓がグシャグシャだ。それから生き残れる素早さがあるなら、それを活かすために金属鎧にする必要はない。動きやすさの中で防御力を持つならこれが一番だ。おまけに和の国の侍とやらは、鎧を着こんでいるのに、すごい速さで動くと聞いたことがある。これなら近い動きができるだろう。お代は金貨一枚と銀貨二十枚程度だが……どうする?」


 ユーキはオークとの戦いで自ら跳んだという意識はなかった。もしそれが本当に自分の戦い方ならば、今ここでそれにあった装備を購入しておいた方がいい。そう考えたユーキは店主へ承諾の意を示した。


「おう。また何かあったらすぐにいえ、それより上等な鎧を作ってやるからよ」

「ありがとうございます。えーと……」

「『親父』で構わん。自分の名前で呼ばれるより、ずっと気楽だ。俺は父親のようにお前らを後ろから防具や剣という形で見守っているとでも思ってくれ」

「ありがとう。親父さん」

「はっ! それに見合うくらいの実力をつけろよな。楽しみにしてるぜ」


 親父に握手をして店を出る。その胸には漆を何度も塗りこんだような滑らかな漆黒の鎧が付けられていた。少しばかり出費が多かったが、いい買い物ができたと満足していた。

 メインストリートに戻り、そのまま宿へと戻ろうとすると一件の店の前を通りがかった。武器屋でも防具屋でもない店。ギルドを出た時には、候補にも挙がることはなかった無関係の店だ。しかし、ユーキは何を思ったのか、この際にと「ある物」を購入することにして中へと入っていった。

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