大源と小源Ⅷ
ユーキは思わず目を開けて立ち上がろうとする。
「うわっ!?」
勢いがついたこともあり、体全体が残像から逃れようと反応したせいか、そのまま後ろへとひっくり返ってしまった。
何とか踵を軸に反転して手を付こうとした瞬間、マットか何かに突っ込んだような柔らかさが手を包む。手首を痛めるかとも思ったが、全くの無傷だ。
「あれ、今の成功した?」
「うん。上手くいってたみたい。でも、いきなり立ち上がるからびっくりしちゃった」
「ごめんごめん。目を瞑ってたら変なものが見えちゃったからさ」
そう言って、ユーキは念のために魔眼を開いて、異常がないか見回す。
「――――っ!?」
普段の視界とも、先程見た魔眼の世界とも異なる視界が映し出された。
空も建物も人も地面もみな等しく掻き消えた世界。その中で唯一、黄金の光が地の底で蠢いていた。川のようにも見えるし、蛇のようにも見える。それを理解する間もなく、その光の中で真っ赤に輝く二つの光点が飛び込んできた。
「おい、大丈夫か?」
「あ、あぁ。ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
クレアに話し掛けられて、ユーキは元の視界に戻っていることに気付く。
改めて周りを見渡すが、視界に異常はないようだった。
『何か、見たんですか?』
「(わかるのか?)」
『いえ、あなたの動きを見ていれば、何か魔眼で見たことくらいはすぐにわかります。問題は何を見たのか、ですけど』
ウンディーネが再び声をかけてきた。
一瞬、悩んだがユーキは今見た光景を黙っておくことにする。説明するにしても、上手く言葉で表現できないからだ。
「(いや、何でもない。それより、今日はまだ無理をしない方がいいみたいだ)」
『そうですか……。あまり無理をすると、いつか本当に命を落としますよ』
ウンディーネの言葉を聞き流しながらユーキは椅子へと座り直す。
すると、屋敷の方からフェイが駆けてきた。
「みんな。ここにいたんだね。ちょっと、来てほしいんだ」
「どうかしたのか?」
「伯爵からの連絡でね。とりあえず、魔法学園から来たみんなの安全は急務だからってことで集めたいんだって」
フェイの言葉にクレアの表情が変わった。
「そうなると、本格的にここを攻めようって奴が現れたのかもね」
「安全ってことは、そういうこと……?」
サクラが不安そうにフェイへと尋ねるが、フェイは首を横に振った。
「わからない。僕も今、指示を受けたばかりだからね。何が原因で、どうなっているのか、詳細を聞かされていないんだ」
「とにかく、行けばわかるってことね。マリー! 父さんの所に行くわよ! 急いで!」
離れたところにいる三人に大声を上げると、抗議の声を上げながらも駆け足で寄ってくる。
フランはまだ、魔法障壁の展開ができていないのか複雑な表情をしていた。ぶつぶつと何事かを呟いているようだが、自分なりに障壁の扱い方を言語化しようとしているのかもしれない。
クレアを先頭に全員が歩いていく中、フェイはユーキに近寄るとぼそりと呟いた。
「言う機会がなかったから、今の内に言っておく。身体強化は当分使うな」
「な、なんで……?」
「まさか君があんな危険な状態になるとは思っていなかった。あれは――――今の君には耐えられないから」
「お前、何か知って――――」
「おい、二人とも何してんだよ。早くいこーぜ」
ユーキの言葉をかき消すように、マリーが大きな声で呼びかける。
一瞥した後、フェイは知らず知らずの内に強く掴んでいたユーキの腕を離しながら、念押しした。
「いいか。余程のことがない限り使うな。君が思っている以上に、今の状態は危険なんだ」
そう言い放つと踵を返して、歩いて行ってしまった。
「――――俺、そんなにやばいのか?」
『少なくとも身体面に異常はありませんよ。もしかしたら、彼なりの心配なのかもしれませんね』
ウンディーネの言葉に、とりあえず納得して、ユーキもフェイたちの後を追う。
フェイに言われたせいか、どこか体が重く、足に力が入らないように感じた。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




