大源と小源Ⅶ
フランがマリーとアイリスに魔法障壁の張り方を教わっている横で、ユーキはオースティンが手配した椅子に座って、その光景を見つめていた。テーブルも用意され甘味も置いてあるが、手を付ける気にはなれない。
「はー、元気だな」
「当然だよ。病み上がりのユーキさんと違って、私たちは魔物を狩って来ただけだもの」
「いやいやいや、魔物を狩る方が十分疲れるって」
ユーキは少し休憩している間に、クレアから魔物を狩っていたことを知らされた。
かなり大きな魔物を狩ったということで、みんな大はしゃぎだったらしいが、ユーキとしてはケガ人が出ていないか心配になる。
「このままじゃ、みんなに置いて行かれるな」
「何言ってんだよ。母さんから聞いたよ。とんでもなく、ヤバい化け物に挑んだんだって? あたしも見たかったなぁ」
クレアがテーブルからクッキーを一つ摘まみ上げると口の中に放りこんだ。
サクッとした良い音がユーキの耳まで届く。
「あたしからすれば、父さんも母さんも化け物みたいな強さだけど、ユーキも大概だと思うよ。究極技法を難なく習得しちまったんだって?」
「あー、うん。らしいね。俺は覚えてないんだけど」
自身に存在する魔力を限界まで使用する技術、魔力制御最大解放。本来、人間が安全のために抑えている魔力供給可能な量を遥かに上回る量で行使するため、その威力は絶大な反面、使用後は極度の疲労状態に陥る諸刃の剣だ。
その点、ユーキは疲労という意味では、未だにそのような症状は出ていない。もしかしたら、数日後に起こるかもしれないと脅された時は、どうなるかと思っていたが、杞憂に終わったようだ。
「……置いてかれそうなのは、私の方だよ」
「え、どうかした?」
「ううん。何でもない」
クレアの方へと意識が向いていたユーキは、サクラの声を聞き逃した。何やら不安そうな顔をしていたが、すぐに首を振って笑顔になる。
何か思い当たることはないかと思案するが、情報が少ない為、答えに辿り着くことはなかった。
「それで? 次はいつ練習を再開するの?」
「そういう所は姉妹揃ってそっくりだよ、本当に。人の困った顔を見るのが好きな趣味でも?」
「まさか。ただのおせっかいよ」
「どうだか……」
そう言い放ってユーキは、目を瞑る。
体の中の魔力を今は魔眼で見ることができない。感覚だけで流れを把握しなければ、十分に障壁の能力を発揮するのは難しい。
ただ垂れ流すだけでも効果はあるが、魔法の激突寸前まで使わなければ魔力の温存につながり、一気に押し出すことで防御力も跳ね上がる。
「あたしの知っている人はね。その魔法障壁を極めて、究極技法にまで至った人もいるんだ。下手すると母さんの魔法でも防いじゃうかもね」
「え、あの魔法でも……?」
サクラの脳裏にバジリスクを燃やし尽くした光景が思い出される。巨大な体を数秒で消し炭にする火力だ。それを防ぎきるとなると、魔法使いという人種は人間を辞めているとしか思えなくなる。
「あぁ、例え火の中、水の中、風の中ってね。本人は水に囲まれるのだけは勘弁してくれって言ってたけど、ありゃ嘘だね。何でも防ぎきれると思う。多分」
サクラの目にはクレアは至って普通に話をしていたが、その目だけがいつになく真剣味を帯びているような気がしてならなかった。
そんなことがあるとは知らず、ユーキは自己の魔力をゆっくりと体の中で循環させる。指や髪の先まで感覚を掴もうとするようにしていくが、一朝一夕で身に着くものではない。
『ユーキさん。あまり無理をしない方がいいですよ。貴重な秘薬があったから良かったものの、なかったら私ですら治せない状態だったんですから』
「(それなら、なおさら練習しないでいるのは良くないよ。いつ、自分の力が必要になるかわからないからね。さっきも言った通り、早く本調子に戻しておかないと――――)」
ウンディーネと言葉を出さずに会話をしていると、網膜に移った残像が不意に強烈な光になって迫ってくるのを感じた。
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