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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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大源と小源Ⅳ

 森の秘薬は御伽噺に出てくるポーションの一つだ。

 曰く、「腕が斬り落とされた部分が再生した」

 曰く、「老衰で死ぬはずの老人が全盛期と同じように走り回り、百五十歳まで生きた」

 曰く、「呪いに侵された体が全快した」

 いわゆる、物語をハッピーエンドにするためによく使われるアイテムの一つである。


「それ、オークションで見たって言ったけど、いくらで売れたの?」

「大白金貨十八枚だったかと……」


 クレアは自分で聞いておきながら、卒倒しそうになった。

 日本円にして十八億円。たった数十ミリリットルの液体が、だ。


「まぁ、若返りに呪いの解除。肉体再生。本によれば死んだばかりの体なら生き返らせることも可能だとか」


 フェイが苦笑いしながら、その小瓶の行方を見つめる。

 メリッサが小瓶を落とさないか気が気ではなかったが、そこは伯爵家のメイドの頂点。手を震わせることなく、その口元へ小瓶を運び、ゆっくりと傾けた。

 最初は数滴。様子を見ながら少しずつ口の中に入れて行くと、次第にユーキの動きが見えてきた。

 十秒も経つ頃には液体を飲み干して、すぐに周りを見回す。


「――――動、ける?」

「よかった……って、うぷっ!?」

「はーい。サクラちゃんも苦いお薬飲めて偉いでしゅねー」


 油断したサクラの口へ、マリーが自分の懐にあったポーションを押し込んだ。

 涙目になりながらマリーの肩をタップして助けを求めるが、相手が悪い。そのまま、押し込まれ続け、ポーションを飲み干すと大きく息を吐いた。


「マリー。いきなり、なにするの!?」

「いやー、怪我は治ったんだし、いいじゃん?」

「そういう問題じゃないの!」


 大きな声で反論するということは、遅効性と言えどもポーションが効いているからだろう。そこまで大きな怪我ではなかったことも含めて、放っておいても三日もあれば治っていた可能性が高い。


「確かに上手いとは言えないですけれど、そこまで拒否するほどですか?」

「当然っ! 危ないかなって時は飲むけど、それ以外は絶対飲みたくないもん!」


 怒りで顔を真っ赤にしながらマリーを睨む。


「でも、良かったよ。みんな元気そうで……」


 その光景を見てユーキはベッドから立ち上がろうと足を投げ出した。

 まだ、体のコントロールが効かないのか、僅かに上半身が揺れる。不安を覚えたオースティンが横から支えてくれたが、既に補助が無くても大丈夫な程に回復していた。


「お気を付けください。本調子ではないでしょうから」

「いえ、それよりもお二人ともずっと看病してくださって、ありがとうございました」

「ビクトリア様の客人で、マリーお嬢様の友人ともなれば当然でございます」


 にっこりと笑うと顔に刻まれた皺がさらに深くなった。

 そのまま支えられていると、サクラに捕まれたままマリーが傍までやってくる。


「いやー。母さんがいきなり拉致しちゃってごめんな。びっくりしただろ」

「まぁ、びっくりさせられるのはマリーで慣れてるから大丈夫だったかな。どちらかと言うと、いろんな魔法書を読むことができてラッキーだったかも」

「もしかして……あれ?」


 アイリスがベッドの横にあるワゴンに積まれた魔法書の数々を指差して尋ねる。

 結局、何冊読んだかはわからないが、相当な数の本を読んでいたはずだ。それでもまだ内容が中級止まりということは、相当な知識を身につけなければ魔法を使いこなせないことがよくわかる。


「そうだな。まだいっぱい読みたい本はあるけれども、そろそろ体を動かさないと鈍っちゃいそうでね。フェイ、時間があったら、この後に素振りとかどうかな?」

「非常にありがたいけど、仕事があるからね。やるなら明日の朝からいつも通りになりそうだけど、それでもいいかい?」

「あぁ、頼むよ」

「わかった。それじゃ、僕は先輩たちの手伝いをしにいくよ。あまり無茶をしないでくれ」


 フェイはサクラとマリーに視線を送ると部屋から出て行った。果たして、今の言葉はサクラに向けられたのか、マリーに送られたのか。想像するに恐らく両方だろう。

 もしかすると、言外にユーキも含まれていたかもしれない。

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