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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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大源と小源Ⅲ

 数分後、ユーキの意識が僅かに本から逸れる。

 その理由は波のように、そして次第に大きくなる騒音に気が散ったからだ。


「(何だ……? 騒がしいな)」


 流石にオースティンが異変を感じてドアまで近づいていくと、それよりも早くマリーたちがドアを開けて突入してきた。


「わりぃ、メリッサ。ちょっと来てくれ」

「どうしましたか? お嬢様」

「あたしの友達がケガしてるんだけどさ。治癒魔法得意だっただろ? 少しかけてやってくれないかな?」


 その言葉にメリッサはオースティンへと視線を向ける。オースティンは仕方ないとばかりに目を瞑ると首を縦に振った。

 その時、聞こえるはずのなかった声が聞こえた。


「サク、ラ?」


 ユーキの目がドアの向こうで抱えられているサクラを捉えていた。

 不安に揺れる瞳だったが、すぐにそれは治まった。顔色を見る限り、そこまでの酷いものではないと判断できたからだ。服に血の類も付いていないのに抱えられていることから、足首でも挫いたのかと想像した。

 それに本当に危なかったらウンディーネが反応しているはずだ。人間にあまり良い感情を抱いていない彼女だが、少なくとも、サクラたちを見捨てるほどの気持ちはないことはわかっている。

 しかし、一時でも走った動揺はユーキの体内に異常を引き起こそうとしていた。


「(また……意識が……?)」


 心臓が跳ね上がった瞬間、元に戻りかけていた時間の感覚が再び引き延ばされる。音が遠く、体は鈍く、意識だけが冴え渡っている。

 その様子に気付いたのは一日中、傍で付き添っていたメリッサだった。


「まさか。また感覚が狂い始めましたか……?」


 その言葉にオースティンもユーキの目線に合わせて瞳の動きをじっと見つめる。


「確かに瞳の揺れ、瞳孔の開きが先程と違いますね。あまり彼を刺激しない方がいいかと、お嬢様。まずは彼女を別の部屋に――――」

「その前に、あれを試して、みる」


 オースティンの言葉を遮って、アイリスがマリーの服の裾を引っ張った。


「あれ?」

「この前貰った、薬」

「「……あ」」


 先日、エルフの弓使いに貰った薬の小瓶のことを忘れていた。

 サクラも前回はユーキが無事であったことが思考の大半を占めていて、薬のことまで気が回らなかったからだ。


「そういえば、ポーション飲めば打撲位すぐに治るでしょ?」

「姉さん、気付いてたんなら言ってくれよ」

「いや、ポーションだってお金はかかるわけだし、治療魔法の方がいいんじゃないかなって」


 薬草の採取依頼でポーションの引換券がもらえるが、ポーションの値段は当然ながらそこらの飲み物よりも十数倍高い。薬草依頼でポーションの引換券を貰うのは何も低い階級の冒険者だけではない。自前で作ることができない冒険者は、時折、数日使って薬草の採取依頼を受け続けることも有るくらいだ。


「サクラ。痛いときは無理しないで飲んだ方がいいぜ」

「だって……苦いんだもん」

「うっ……。確かに凄い臭いと味だけどさ……」


 二人で眉根に皺を寄らせるとどちらがケガ人かわからない。ポーションの効き目は遅効性だが、後になって痛むということが少ない。治癒魔法は即効性がある分、治せなかった部分が後で痛むことがよくあるため、二つの使い分けは実は大切だったりするのだ。


「えーと、それよりユーキに薬を飲ませてあげた方がいいんじゃないかな?」

「そ、そうだった。これ、お願いできますか?」


 サクラが小瓶を取り出すとオースティンは両手で受け取って、僅かに目を細めた。

 光に透かすようにすると、明るい新芽のような緑色の液体が揺れるのが見える。オースティンは一瞬手が震えそうになるのを抑えて、サクラに問いかけた。


「お嬢さん。これをどこで手に入れられたのですか?」

「その……A級冒険者になる予定のレナと言う方に……」


 その返答にオースティンは酷く驚いた様子で目を見開いていた。

 一度息を吸って、メリッサを呼ぶと小瓶を彼女に渡して向き直る。


「その方は、エルフの方ですね? 昨今話題の弓使いだとか」

「そ、そうですけど……」

「あれはエルフの里にしか存在しない秘薬。通称『森の雫』と呼ばれるポーションです。私も過去にオークションで一度見た限りですが、あの輝きは間違いありません」


 その言葉を聞いて、マリーたちは呆然とした。アイリスやクレアですら口が開いて塞がらない。

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