大源と小源Ⅱ
マリーの周りに飛んでいた光が消えるとビクトリアは笑った。
「解除と装着の呪文は後で教えるわ。戦うことがわかっていたら直前までは外さない方がいいからね」
「ちょっと待ってくれ。それじゃあ姉さんはどうなるんだよ?」
「あたしも一応同じ魔法をかけてもらってはあるんだけどね。自分の意思で自分の道を歩んでいるだけ。あんたはあんたで考えて動けばいいんじゃない?」
クレアは腰に手を当てたまま、マリーに語り掛ける。
「自分の好きなことに使うもよし。母さんを超えるために特訓するのも良し。そんなこと無視して今まで通り歩むもよし。さっきのは母さんの希望であって、あんたの意見じゃない。しっかりと考えておくことね。そうじゃないと、後悔するわよ」
どこか自分と似ている笑顔を浮かべながらも、その瞳がいつになく真剣であることにマリーは気付いていた。唐突な展開に理解が追い付いていないマリーにアイリスは助言をする。
「マリー、一度落ち着いて考えた方が、いい」
「そ、そうだな。色々とありすぎて、頭が破裂しそうだ」
「マリーの頭じゃ、理解するのに時間が、かかりすぎるから」
「おい、誰がバカだって?」
「誰も、そこまでは言ってない」
アイリスへ詰め寄って肩を掴んで前後に揺する。抑揚のない笑いがアイリスから漏れてくるが、どことなく馬鹿にするというよりは、少し喜ぶような声音だ。
「まぁまぁ、マリーさん落ち着いてください」
「お前はあたしと最高の悪戯コンビだと思ってたのに、酷い裏切りだぜ」
マリーもアイリスが冗談で言っていることが分かっていたのか、冗談交じりに肩から手を離した。
フランもマリーが本気で怒っていないことを知って、ほっと息をつく。逆にフェイとクレアはやっと茶番が終わったとでも言いたげに目を合わせた。
「それで? どうするのかしら?」
「とりあえず解除の方法だけ教えてくれ。また装着するかどうかは後で考える」
「いいわ。それじゃ、話が終わったらここに残りなさい。誰かに聞かれるわけにはいかないから」
そう言うとビクトリアは、ここで初めてマリーから目を離した。その視線の先にはサクラがいた。
頭から足まで一通り眺めた後、お腹のあたりをじっと凝視する。数秒ほど沈黙が流れると、不意にビクトリアが声をかけた。
「あなた。さっきから何も話していないけれど、どこか怪我をしているのではなくて?」
「――――っ!?」
思わずサクラの目が見開かれる。
「そうなのか!? もしかして、さっきのシャドウウルフとぶつかった時に?」
マリーが急いでサクラへと詰め寄る。
「だ、大丈夫だよ。ちょっと打撲した位の痛みだから」
「サクラさん。無理はしない方がいいですよ。しっかり治療しましょう」
心配してフランも近寄ると、脇腹を庇うように後ろへと下がる。
しかし、後ろへ回り込んだアイリスが脇腹を突くと、ばね仕掛けでも仕込まれていたかのようにサクラの体が跳ね上がり、近くのソファの背もたれに手をかけて寄りかかる。
「サクラ、嘘つくのが、下手」
「ちょっと待て、アイリス。お前分かってて黙ってたのか?」
「何か理由があるの、かもって」
アイリスはサクラの背中を優しく擦りながらマリーへと反論する。
一瞬、フランとフェイは擦るなら指を患部に突き刺すな、と言いたげな顔で見ていた。
「なるほどね。同じ羽のある鳥は一緒に飛ぶ、なんて言葉があるようだけど、正にその通りね」
ビクトリアが苦笑いしながらマリーとサクラを見比べる。その言葉にマリーは頭の上に疑問符をいくつも浮かべているが、我に返るとサクラに肩を貸して部屋の外へと向かう。
「母さん。とりあえず、サクラを寝かせてくるから、解除用の呪文は後で聞きに来る。メリッサは……確かユーキのところだったな。あそこまでいくぞ」
「あ、その部屋は……」
「フェイ。反対側を頼む」
「了解。失礼するよ」
ユーキという言葉を聞いた瞬間に抵抗を見せるが、身体強化もしていないサクラに二人を振りほどく力は残っていない。抵抗虚しく、二人に運ばれていく姿を見て、ビクトリアは楽しそうに目を細めた。
「いいわねぇ。青春って」
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