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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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大源と小源Ⅰ

 シャドウウルフのボスを無理やり街まで引っ張ってきた時、最初に門番は引き攣った顔で他の待機している門番に応援を呼び掛けるところだった。なぜならば荷台にこんもりと山のようなシャドウウルフが載っていた挙句、御者台から酷く大きなシャドウウルフの顔が覗き見えたからである。

 クレアが何とか落ち着かせて、事なきを得たが、冒険者ギルドに辿り着くまでの間もなかなかの阿鼻叫喚の地獄絵図を出すところだった。

 シャドウウルフは普段から見慣れているはずの住人でさえ悲鳴を上げるのだから、今回の獲物がそれだけ異常であったことがわかる。

 冒険者ギルドに着いてからも一悶着あったが、破格の報酬を渡され、全員でにこやかに伯爵の屋敷へと戻ることとなった。


「――――というわけで、あたしたちの活躍はどうよ」

「どうよ、と言われてもねぇ」


 自信満々に言い放ったマリーに対して、ビクトリアは目を瞑ったままこめかみに手を添えた。


「確かに結果論としては上々の出来、といっても良いかもしれないけれど、魔法の練習という意味では中の下かしら」

「なんで!?」


 マリーが食い下がるが、その後ろではクレアがアチャーと額に手を当てている。


「まず前衛を抜かれたときの対処が遅い。賢い魔物なら前衛を盾にしたまま攻撃を続ける可能性があることを忘れてるようね。火球魔法を保持したまま使用したのも技術としては良いけど、それを突破された時のことを考えているようには思えないわ。少なくとも、クレアくらいに白兵戦ができるスキルを磨いてからやらないとね」

「そ、そんなことは……」

「ただ魔法学園での練習はサボってなかったみたいね。魔力の操作も上手くなってるし、発動もスムーズ。その点においては及第点を上げてもいいわ」


 フェイは後ろで聞きながら首を傾げた。

 マリーは母であるビクトリアに魔法と言う才能において、コンプレックスを抱いている。その原因の一つが、ビクトリアの容赦ない指摘だ。

 彼女がもっと幼かった頃、泣こうが喚こうが悪いところを淡々と指摘し、子供に要求するとは思えない精度の魔法を行使させた。その頃を知る者としては、刺々しさが半減。そして、褒めるという有り得ない優しさがおまけで着いてきている。


「……え?」


 当の本人ですら、実の母親に褒められたことを理解するのに数秒のラグが発生している。魔法の指導に関してだけ見れば、それほどまでに異常なことではある。

 それはビクトリア自身も理解しているらしく、苦笑いをしながら小型の杖を振るった。


「まぁ、あなたも大きくなったし、そろそろ次の段階に進んでもいいかしら、って思ってたところなのよね」


 細かい光の粒子がマリーの下へと流れて行くと、そのまま四肢に纏わりつき始める。


「魔法を使う上で一番難しいのはね。魔力の制御の一言に尽きるわ。だから幼い頃からずっと負荷をかける魔法を付けて来たんだけれど、それを外せるようにしてあげる」


 不敵な笑みを浮かべるビクトリアだったが、拍子抜けするほどに間抜けな声がマリーの口から漏れた。


「えっ!? あたし、今までそんなものつけられてたの?」

「え? もしかして気付いてなかったの?」


 クレアが割と真面目な顔で問いかける。その傍らではアイリスも意外そうな顔で頷いていた。


「マリー、てっきり秘密特訓しているのを知られたくないのかと、思ってた」

「そんな複雑な魔法が使えるんなら、最初から苦労してない!」


 地団太を踏みそうになる気持ちを抑えてマリーは反論する。ビクトリアに教えてもらったのは、生活に役立つ基礎呪文や魔法学園で習う汎用呪文、身体強化や魔法障壁と言った戦闘における基礎中の基礎だけだ。

 他の貴族ならば、先祖が代々開発してきた魔法の呪文などを教えてもらっている者もいる。


「強力な魔法を扱うには、それだけ強固な土台が必要なの。あなたにはいずれ、()()()()()()()()から、そのつもりでね?」

「あたしが、母さんを?」

「そうじゃなければ、魔法を使い始めたその日に、こんな魔法をかけないわよ。私自身ですら、この魔法をかけてもらったのは十二歳を超えてからだったんだから」


 ビクトリアの言葉にマリーは複雑な気持ちでいっぱいだった。

 自分が今まで感じてきた劣等感は何だったんだろうと疑問が浮かび上がるが、何よりも認めてもらえたということが理解しきれていない。どこか手足がピリピリして、自分の体ではないように感じてしまう。

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