周辺調査Ⅶ
火球の爆発で巻き上がった土埃が晴れ始める。それと同時に土煙を突き破って、シャドウウルフが躍り出た。
「「『――――すべてを穿つ、巨石の墓標よ!』」」
二人の息を合わせた詠唱が響くと地面が鳴動する。
再び、シャドウウルフがバックステップをするが、目の前ではなく、その両側を塞ぐように岩の槍が突き出る。しかも意地の悪いことにバックステップをしたさらに奥を狙うように岩が続々と出現する。
フランが稼いだ時間の分だけ、魔力を十分に行き渡らせた巨大な槍と言う名の壁が、シャドウウルフを襲う。背後から攻撃をされる可能性を感じた敵の行動は一つ。前進あるのみだ。
そして、その前進を誘って正面から魔法を叩きこもうとフランが構えたその時。
「――――!? 二匹がそっちに抜けるっ!」
フェイの叫びが彼女の耳に届いた。左を向けばフェイを一匹が抑え、その両隣を抜けてフランに向かって飛び掛かってくる他のシャドウウルフが目に入る。フェイを襲うよりも、後ろにいるフランたちを危険だと判断したのだろう。
フランが思わず左手を上げて顔を庇うと、そのまま地面へと押し倒された。背中を強く打ち、詠唱が途絶え、魔力の流れが停滞する。何とか身体強化で左手の小手に噛みついたシャドウウルフに抵抗するが、なかなか引き剥がすことができない。
その間にもう一匹はサクラへと目掛けて飛び掛かった。噛みつきではなく頭突きのようにして魔法を掻い潜り、無防備な脇腹へと体当たりする。
衝撃が体内を突き抜けると同時に体が空中に浮きあがった。地面を滑り、すぐに立とうと手を着く。だが、あっという間に鈍痛が腹部に広がり、足が震えて立ち上がることができない。
そのまま目の前のシャドウウルフに首元を食い破られそうになる。死を覚悟してサクラが目を瞑るが、その前にクレアがシャドウウルフの横腹を切り裂いた。
「ちっ。浅かった」
「あ、ありがとうございます」
「礼はいいから、あっちを早く……!」
クレアが急いでフランへと目を向けると、ちょうどフランを組み伏せるシャドウウルフをマリーが火球で吹き飛ばすところだった。
「こっちはオーケー。後はあのボスウルフだ、け……」
たった二匹の吶喊は、陣形を崩し、巨体のシャドウウルフが接近するには十分だった。たった数秒で、ほぼ目の前にまで走ってきているのがマリーの視界に入る。空中を疾駆するように一歩で数メートルを飛んでいるようにすら見えた。
その牙が向かう先はクレア。まだサクラの上にいたシャドウウルフへの警戒を解いておらず、その背後に迫る影に気付いていない。
マリーが警告の声を出そうとするが、それよりも早くシャドウウルフが残りの一歩を強く踏み込み、クレアへと飛び掛かるのが早いだろう。
「姉さ――――」
――――ズブリ
水気のある音が響く。
遅れてクレアが自分の背後へと振り返った。その顔にはマリーそっくりの、あの笑顔が張り付いている。
「ざーんねん。まさか、あたしが背中をとらせると思った?」
シャドウウルフはクレアへ飛び掛かるための最後の踏み込みをするために前足を着地させた。その瞬間、足が地面へと沈みこんでいた。それだけではない、まるで底なし沼にでも嵌ったように、どんどん足が、体がめり込んでいく。
何とか呼吸だけはできるようにと藻掻いて顔を突き上げているが、既に下顎まで呑み込まれていた。
「いやー。いいトラップね。流石、アイリス。普段、あたしの妹とつるんでるだけあるわ」
「ちょっと、予想外のハプニングで魔法を使う範囲がずれた。ギリギリ」
アイリスはどことなく安心した様子でクレアへとサムズアップした。
彼女がやったことは説明するだけなら至極簡単なことだった。サクラとマリーが土の魔法を発動したところに水魔法で地面に泥濘を作る。
ただし、普通に使うだけでは水たまりを酷くした程度だが、土魔法が付近で使用されたことにより、土自体の密度が少なくなって、水の魔法が通りやすくなっていた。その為、底なし沼のように体重がかかると沈み込む程の柔らかい土を生み出すことができたのだ。
壁を土魔法で作ると聞いた瞬間に思いつき、実行するのはやはり頭の回転が速いからだろう。クレアはその才能に少し嫉妬を覚えながらも、どこか嬉しそうにして武器を握る手に力を入れた。
その一方でフェイは対応していたシャドウウルフを何とか倒して、サクラたちの下へと駆け付ける。
「すまない。こっちに通してしまった」
「気にしないで、私たちは大丈夫だから」
脇腹を抑えながらサクラは立ち上がり、フェイへと返事をする。
そして、何とか手放さなかった杖を脇腹から血を流すシャドウウルフへと向けた。
流石にボスが捕まり、他の仲間もやられたところを見て、勝機がないことを悟ったのだろう。最後のシャドウウルフはぎこちない動きで森の中へと駆けて行く。
当分の間は傷を癒すため、街道に出てくることはないはずだ。
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