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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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周辺調査Ⅵ

 シャドウウルフの生態はボスをトップとした(つがい)を中心に、十匹に満たない群れを複数形成する。大抵の場合は血縁関係にあることが多い。そんな家族を守るためにボスが下した決断は、目の前の危険生物との衝突か撤退か。

 しばらく、睨み合いが続いていたが、唐突にシャドウウルフは目の前へと走り出した。


「迎撃! さっきまでのと一緒と思わない!」


 クレアの掛け声に応じて、マリーが真っ先に杖を向けた。

 杖を前に向ける一瞬。その僅かな時間で目の前の巨体が掻き消えた。


「――――っ!?」


 数瞬の後、フェイの体が宙を舞った。

 その下には頭部で突き上げたシャドウウルフの姿が見える。天に吠えるように突き上げた頭を下ろすと、次はサクラへと目標を定めた。


「す、『すべてを穿つ、巨石の墓標よ!』」


 地面が軋みを上げると突進しかけていたシャドウウルフが突如、後ろへバックステップする。遅れて現れた岩の槍は詠唱を短縮したためか、かなり小さい槍だったが、そのまま突き進んでいれば確実に脳天に直撃していただろう。


「ぐっ……なんて早さだ……」


 空中で態勢を整えたフェイが片膝をついて着地する。何とか話せてはいるが、内臓をやられていてもおかしくない威力だ。身体強化の魔力で治癒力も強化されているとはいえ、動けない時間は短くない。

 シャドウウルフの素早さを見誤ったせいで前衛と後衛の間に入られてしまった。クレアが走るよりも早く敵は駆け抜ける。岩の槍に警戒をして距離を測っているが、発動のタイミングと早さは、先ほどのやり取りでほぼ見抜かれていてもおかしくない。

 シャドウウルフが岩の槍を回り込むようにゆっくりと歩き出す。その間に詠唱を始めたフランは杖を握りしめた。


「――――大丈夫。落ち着いて撃てば当たる、はず!」


 この中で唯一、一度の詠唱で魔法を連射できるフラン。火球魔法なら魔力を大量に消費する代わりにマシンガンのように火球をばらまくことも可能だ。魔力を消費しすぎて命の危機に陥ったこともあるが、幸いにも首からぶら下がっているペンダント。その中心に輝くルビーの中の魔力はいくら吸い上げても枯れるとは思えないほどに蓄えられている。

 だからこそ、落ち着いて杖で狙いを定めた。その上で多少狙いが甘くなってばら撒いてしまっても、当てることはできる。岩の槍を回り込んだシャドウウルフがサクラの前へと姿を現す瞬間に合わせて、詠唱を言い切った。


「――――グルッ!?」


 再度、突進をしようとしてシャドウウルフの動きが止まる。サクラの右後方から夥しい数の火球が飛んできたからだ。一発、二発ならば動揺はなかっただろうが、連続で十数発も向かってくる光景には思わず足が止まってしまうのも無理はない。サクラに飛び掛かろうとしていたためか、その場からほとんど動くことができないでいた。


「フラン、ナイス!」


 マリーが喜び叫んでサクラの側へと走り寄る。

 その間にシャドウウルフの周りには、火球が着弾し土埃が舞った。


「面倒なのは、あいつの機動力だ。両側に岩の槍で壁を作って避けれないようにする。行けるか?」

「多分できる。もしかしたら、飛び越えられちゃうかもだけど」

「そんな時にはまた作戦を考えるさ。あたしが左、サクラが右!」


 そんな二人の前にクレアが滑り込む。


「フェイは下がって、森側を警戒。前は何とかあたしが食い止めるから!」


 獲物を構えて、身体強化へ回す魔力を極限まで高める。ただでさえ二メートルの巨体を受け止めるのに力がいる上、相手は予想以上の速さで突撃してくる。幸運なことに今回は後衛の魔法訓練ということで、普段使わない片手剣・片手盾を装備してきていた。これが短剣や槍だったら、シャドウウルフの速さに対して防御という選択肢は取れなかっただろう。


「フラン! 一度やめて、どでかいのを一発用意! その様子なら魔力に自信があるわね? アイリス、あんたのことだから何か仕掛けてんでしょ? その準備が終わり次第どんどん攻めて!」


 クレアの声にフランは火球の弾幕を収め、一撃で仕留めるために再び詠唱に集中する。対して、何も攻撃をしていなかったアイリスは、こくりと頷いただけだった。

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