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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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周辺調査Ⅴ

 異変に気付いたのは、三回目のシャドウウルフとの遭遇戦を終わらせた後だった。街から離れるにつれて出現する数が増えるのは予想できたことだが、その遭遇頻度に首を傾げた。


「一時間も経たない内に十三匹。街に来る時には出会わなかったのに、何でこんなに増えたんでしょう?」


 フランの呟きにクレアも頷いた。


「おまけにどのシャドウウルフも成体とはいえ体格がいい。何か……変な予兆じゃないだろうね……?」

「とりあえずギルドに連絡を入れる。冒険者がいっぱいいるから、対処してくれる、はず」


 アイリスが提案には全員が同意した。もともと荷馬車に乗せるシャドウウルフの量的にも、街へと戻る頃合いだからだ。報告と換金ついでに連絡をすれば、一石二鳥になる。伯爵側からすれば街道の危険が取り除けて、街の中の保存食が増えることにもなる。

 今後、何がとは言わないが、街が攻められた時に備えて、糧食は確保しておきたいところではある。


「急いで戻った方がいいかな?」

「いや、その必要はない。あくまでシャドウウルフ。この程度ならば騎士団を出すまでもなく掃討できる範囲の魔物だ。流石にこの近辺で一番強いレッドベアーが集団で出てきたら対処する必要があるけどね」


 フェイはサクラに苦笑しながら解説した。

 レッドベアーは体長二メートル。大きい時には三メートルを超える巨体の赤毛の熊だ。その特徴は名前にもある通り血が固まったような赤黒い毛の色。一匹の力を抑えるのに身体強化を施した騎士が最低十人は必要になる。一般人が振るわれた腕を受ければミンチ確定になるほどの膂力を有するほどだ。


「意外なことに性格は臆病でね。人間の気配に敏感で争うことはほとんどないんだ。最後にレッドベアーと争ったのも、子供連れの母熊を刺激してしまったのが原因だからね。普段は僕たちと同じでシャドウウルフや川にいるデカい魚を食べているみたいだよ」

「まぁ、怒らせたら最後。死ぬまでこっちを追ってくるから面倒なことこの上ないんだよねぇ」

「な、何か対処法とかないんですか?」


 フランが話を聞きながら怯えていると、クレアは良い笑顔で告げた。


「そんなのどんな生き物も一緒。顔面に一発良いのをくれてやれば、どっちが格上か理解できるでしょ?」

「えぇ……!?」


 身もふたもない脳筋な答えにフランは肩を落とす。マリーはその横から、そっと肩に手を置いた。

 その表情はどこか遠い目をしている。


「フラン。母さんや姉さんに常識を求めるだけ無駄なんだぜ」

「マリーも大概、非常識」

「なんだとー!?」


 即座に反応してアイリスをマリーが追い掛け回す。元気そうな二人を見ながら、クレアはフェイにぼそりと呟いた。


「あたしが言うのも何だけどさ。あの子、ずいぶんと変わったね」

「そうですか? 僕と会った時から、あんな様子だと思いますが」

「そう見える? あの子ね。結構、人を信じないタイプだったんだけど、ああやって見てると変わったんだなってよくわかるんだよ」


 クレアがそう呟く横顔は懐かしそうにも寂しそうにも見えた。

 アイリスを抱えて戻ってきたマリーに歩いていくと手刀でおでこを軽くはたいた。


「こーら。アイリスちゃんをいじめないの」

「えー、何で私だけ言われるんだよー」

「年齢を考えなさい。年齢を! アイリスちゃんが何歳だと思ってんの!?」


 そのままマリーのほっぺたを掴んで引っ張ると、その痛さに耐えかねてアイリスを落とす。

 姉妹の微笑ましい姿を苦笑して見ていたサクラたちだったが、不意に森側から大きな獣の声が聞こえてきた。

 全員が慌てて、声の聞こえた方を見ると五十メートル程離れた茂みから巨大なネズミが何匹も走り出てくる。明らかに自分たちを襲ってくる雰囲気ではなく、何者かから逃げているように見えた。

 その内、茂みを突き破って出てきたネズミが飛び越えてきた巨大な影に踏みつけられる。シャドウウルフの群れがどうやらネズミを追い掛け回していたらしい。二匹、三匹とシャドウウルフが茂みを飛び越えて他のネズミを捕獲すると、茂みの奥へと消えて行く。

 戦ってもよかったのだが、荷馬車がいっぱいな以上、戦いが避けられるならそれに越したことはない。シャドウウルフも同胞の血の匂いの濃さに、襲うのは得策ではないと判断したのだろうか。茂みから再び姿を見せるものはいないように見えた。ほっとしてサクラたちは杖を下ろし掛けたが、クレアだけは自分の得物を下ろさずに森の奥に目を光らせる。


「こりゃあ……デカいね」


 同胞を殺されて黙っていないタイプも時には存在する。それは先ほどの母熊の例も同じだが、群れのリーダーもまたそのような判断を下すことがある。特に自分の力が強いと思っている場合は。


「マジかよ……」


 マリーが驚くのも無理はなかった。二メートルを超える真っ黒な狼が、唸り声を上げながら姿を現したのだ。

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