周辺調査Ⅲ
ビクトリアに言われるがまま、冒険者ギルド経由でサクラたちは街道沿いの魔物討伐へと来ていた。
主な目標は四足歩行の肉食動物であるシャドウウルフである。
「別に影でできた狼っていうわけじゃなくて、自分の影のように常にしつこく追い回してきたり、待ち伏せして物陰から躍り出たりすることが由来みたいでね。街道はいいんだけど、ああやって森の近くとか中に入っちゃうとあいつらのテリトリーってわけ」
クレアがいくつか気になる場所を指差して全員に警告する。
前衛はクレアとフェイで、それぞれの件で対応。対して、後衛のサクラたち四人は片手に杖、もう片方には腕を覆う小手のようなものが装着されていた。
「それで、姉さん。この腕の装備は?」
「あいつらの攻撃方法は噛みつきがメイン。ひっかくことはまずない。飛び掛かってきたときは、その手を囮に差し出してやれば、勝手に食いついて牙が折れて自滅ってこと」
「両側から攻められたときは?」
「そうならないように立ち回るのが勉強だよ」
重い上に動かしにくい、そう思いながらもマリーは仕方なさそうに歩く。
そんな中、フランは物珍しそうに小手を叩いた。
「これ、結構丈夫そうですね。何でできてるんですか?」
「鉄に何度もコーティング剤を塗ったやつさ。騎士の鎧ほどじゃないけど、同じ厚さで言うならいい勝負だと思うよ」
「待って、それってすごい高いやつじゃ……?」
フェイの笑顔にドン引きしながらもフランは小手を外そうとはしなかった。むしろ、陽の光に当ててコーティングがどうなっているのかを観察し始める。
「フラン、勉強熱心」
アイリスもフラン程ではないが、興味深そうに左手を捻って光の反射を見ている。
「それでクレアさん。ウルフを発見した時の対処法はどうするんですか?」
「そうね。遠距離からあなたたちが一発ぶち当てる。あたしたち二人は寄ってきた奴を近づけないように牽制する。ハッキリ言って、あたしたちが倒すことはないと思ってくれていいわ。そういう趣旨で母さんも依頼を受けてくるように言ったんだろうしね」
ただ何も考えずに倒して来いと指示をしたわけではない。むしろ、明確な基準があることをマリーは察したようで、納得いったように呟く。
「魔法の当たる距離感、タイミング、お互いの魔法発動の連携。そういう練習をするには、ある程度、素早くて知能のあるシャドウウルフは最適、ってことか」
そんな杖をなぞっているマリーの姿に、意外そうにクレアが笑った。
「あら、あんたにしては鋭いね。じゃあ、さっそく行ってみようか。口では言えても、体で行動できるかは別物ってね」
そう言うや否やクレアは二十メートルほど離れた森の背の高い草むらに向かって、落ちていた拳大の石を叩き込んだ。威力はほとんどないように見えたが、中に潜んでいたものを引きずり出すにはちょうどよかった。
数秒遅れて、数匹の黒い毛に覆われた狼三匹が姿を現す。体長一.五メートル。その気になれば後二秒もしない内にクレアとフェイの下へと辿り着くことができる力をもっている。
「そういうことをする前に一言言ってください!」
フェイが抗議の声を上げるがくれは涼しい顔だ。これくらい対処できなくてどうする、と表情が語っていた。
「真ん中と右は抑えるっ! 左よろしく!」
クレアの言葉を聞いて、真っ先にマリーとサクラが詠唱を始めた。
「『燃え上がり、爆ぜよ。汝、何者も寄せ付けぬ一条の閃光なり』」
「『燃え上がり、爆ぜよ。汝、彼の者を追う一条の閃光なり』」
マリーの火球を横に飛び退って避けたシャドウウルフが、更に目の前に迫ったサクラの火球を同じようにステップで避ける。
それを見て、サクラは避けた方向へと杖を薙ぐ。すると火球は不自然に曲がり、シャドウウルフの首へと叩き込まれた。悲鳴を上げて転がる姿を見てマリーが驚嘆の声を上げる。
「誘導弾!? すげぇ、後で教えてくれ」
「その分、威力が弱くなるの。早く止めを!」
サクラが呼びかけるとアイリスとフランが遅れて発動させた火球が、倒れたシャドウウルフへと向かう。フランも短期間で余程練習をしたのか、以前のように魔法が止まらないということはなさそうだ。
そのまま一体の体が吹き飛ぶとマリーが前衛の二人に声をかける。
「三秒後に放つ! 一体を寄こしてくれ!」
「了解っ!」
フェイが答えると、マリーは笑みを浮かべながら詠唱を始めた。
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