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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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いざローレンスへⅣ

 離れていく冒険者を見ながら、フェイは小隊長に尋ねた。


「ここらの魔物は強くはないですが、数がそれなりにいたはずです。主にウルフ系とラビット系、そしてゴブリンの三種族だったかと」

「あぁ、だから魔物がいないだなんてことはないはずだ。何かの前兆じゃなきゃいいんだがな。俺は念のため、今の話を伯爵にしてくる。フェイ、森の方から目を離すなよ。出発した後も森に異変がないか注意しておけ」

「了解しました」


 前へと駆けていく先輩騎士を見送りながら、フェイは冒険者の言っていたことを思い返して、眉をひそめる。

 彼らが受けた依頼は恐らく常駐依頼の街道保全関係の依頼だろう。今回のように騎士たちが急な移動をする時、魔物を相手にしていたらきりがない。その為に普段から依頼が他の場所より割増しで出されている。

 また道からかなり外れた場所に行けば、それなりに大きな魔物もいないわけではない。ゲームで言うと「雑魚狩りしながら、ちょっとエリアボスを狩ってくるノリ」で行ける所も、冒険者としては狙い目なのだろう。

 ただ、そうだとしても出てくるのはせいぜいが熊程度で、先ほど挙げた魔物を狩りつくすほどの魔物はいない。それこそ動く獲物を片っ端から襲うハントスパイダーや辺り一帯を焼き尽くすドラゴンのような危険生物でなければ起こり得ないことだ。


「……バジリスクを見た後じゃ、何が出てきてもおかしくないよなぁ」


 既にドラゴンにも出会っているため、本当に出てきかねないところが恐ろしい。身震いをさせながらフェイは馬の手綱を握る。フェイの気持ちを知ってか知らずか。馬は呑気に体を震わせ大きく欠伸をしていた。

 逆に言えば、野生の勘で安全だということが分かっているのだろう。少なくとも、訓練した人間よりも野生の勘の方が案外当たるものだ。





 一方、小隊長の話を聞いた伯爵は顔を顰めて悩んでいた。


「国境から俺たちを引き離す策……戦力の分散による撃破が狙いか? それならば、もっと魔物が繁殖していたり、暴れていたりするものだが、話は全く逆だな」

「はい。何かあれば冒険者ギルドに連絡が入っていてもおかしくはないと思いますが、彼らの様子からすると、そういった話はないようです」

「わかった。ひとまず、ローレンスへ急ぐぞ。国内で起きたことは他の貴族や王都の騎士が何とかできても、国境で動けるのは我々だけだ。念のため、道中で異変がないか警戒は怠るなよ」


 そろそろ休憩も終わりだろう、と他の騎士たちが準備をし始めているところだった。伯爵も心に余裕はあるものの、どこか落ち着かない様子。近くで控えていたアンディだけが、その様子に気付いていた。


「伯爵。一体何を焦っているんですか? あなたらしくないですよ」

「いや、ちょっとトラウ……嫌なことを思い出していてな」

「嫌なこと、ですか」

「あぁ。ビクトリアが宮廷魔術師だったのは、お前も当然知っているよな?」


 馬へと乗りながら伯爵はアンディを見下ろした。


「万が一、何者かが攻めてきたとしよう。どうなると思う?」

「どうなるって、迎撃するに決まっているじゃないですか。伯爵がいなかったら、それこそ当然の話です。他の貴族の奥方ならいざ知らず、ビクトリア様なら……」

「だからだよ。あいつ手加減ってやつを知らないからな。下手をすれば()()()()()()()()()()()()()()()


 アンディも馬へと乗って伯爵の隣へと並ぶが、その顔は何を言っているかわからないといいたげだ。

 しかし、伯爵があまりにも真面目な表情をしていたので、そうなのだろうと自分を納得させることにしたようだ。


「後は、そうだな。あの刀使いの少年が何をされているか、と考えるとな」

「体感時間が引き延ばされるというのもなかなか興味深いものですが、話を聞くと恐ろしくも感じますね」

「これで体も多少動くようだったら、本気で地獄を見ているかもしれないからな。早く行って助けてやらないといかん」

「……ビクトリア様は、あなたと違って常識人だと思います」


 何を言っているんだ、と呆れるアンディだったが、伯爵は忘れていたとでも言わんばかりに目を見開いていた。

 その視線に気付いて、アンディはしばらくの間、伯爵と見つめ合う形になる。


「そうか。そういえば、お前たちには話したことなかったな」

「何のことですか?」

「いや、あいつが俺と結婚決めた理由」

「そういえば伯爵が魔法学園のダンジョンをサボって猛アタックしていたという話でしたっけ?」


 渋い顔をして、アンディの言葉を肯定する。後ろの騎士に顔を向けず、手を挙げて後ろに合図をしながら伯爵は馬を歩かせ始めた。


「そうだが、それは最初の頃の話だ。俺の言っているのは本当に結婚を決めた理由、だよ」

「興味深いですね。後学の為に教えていただけますか? 少しは破天荒な伯爵の制御に使えるかもしれませんので」


 アンディは笑っていたが、次の伯爵の言葉で馬から落ちそうになった。


「あいつが俺と結婚を決めた理由はな。あいつの『()()()()()()()()()()()()()()()』だとよ」

「――――はぁ!?」

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