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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第7巻 黒白、地に満ちる鬨

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いざローレンスへⅠ

 ファンメル王国と国境を接している国は複数あるが、その中でも強大なのが聖教国サケルラクリマと蓮華帝国である。現状、勇者捜索という名目で聖教国とは同盟関係に近い状態の為、そちら側から襲われることはまずない。

 また、他の近隣諸国も大なり小なり違いはあるが関係性は悪くない。むしろ、ファンメル王国を蓮華帝国に突破された場合の被害の方が圧倒的に大きくなるため、攻め込んでくる国家はいないだろう。

 つまり、ファンメル王国にとって最も危険な国は蓮華帝国をおいて他にない。故に本来ならば十日ほど馬を使って強行する道のりを、ローレンス伯爵は転移門で移動する許可が出ていた。

 ただし、ローレンス領の伯爵邸に直行できるわけではない。既に国内に入っている密偵や間者が何かしている可能性もあるため、多少離れた場所への転移になる。

 

「出発は明日になる。その後は俺がいくつか気になっている街や村を回りながら、直轄地に向かう」

「日数で言うと――――三日もあれば十分ですね」

「何もなければな。一番、ヤバいのは間違いなく()()()だろうし、な」

()()()ですよね……」


 伯爵とアンディは二人して溜息をついた。

 大抵、宣戦布告や奇襲からのなし崩しで戦争をする時には、相手国での準備――――所謂、工作活動が終わっていなければならない。例えば人質を取ることもあれば、暴動を起こす、食料を買い占める、商人の行き来を妨害するなども考えられる。

 そして暴動に関して言えば、それを起こすのは何も人間ではない可能性があった。


「ダンジョンの氾濫(オーバーフロー)ですか。一応、間引きはしていますが、チェックしておくに越したことはないでしょう」


 荷物をまとめ終わり、後は明日を待つだけ。部下からの報告書の最終チェックをアンディと済ませて、夕食へと向かおうとする。

 伯爵が扉を開けたアンディの横を通り過ぎようとした時、思い出したかのようにアンディは口を開いた。


「そういえば伯爵。最後に間引きを行ったのはいつでしたか?」

「三月の中頃だから、ちょうど半年だろう。大体九ヶ月から一年半の大まかな周期でやっているが、最短でも時期的に余裕はある。こちらに来る前にも一度寄って確かめたから問題はないはずだ」


 伯爵の返答にアンディが眉を顰める。


「何だ? 心配事でもあるのか?」

「いえ、想像の話ならいくらでもできてしまうので意味のない話ですが、もし氾濫を促進する方法があったのならば危険だな、と思ったのです。何しろ、氾濫ほど国を混乱させるものはありませんから」

「なーに、その時はその時で何とかすればいい。それより王都での最後の晩飯だ。たらふく食っておけ」


 気にすることなく出て行く伯爵だったが、アンディはどこか後ろ髪を引かれるような気がしてならなかった。

 こんな感覚になるのは久しぶりで忘れてしまっていたが、最後にこの感覚になったのは数年前だった気がする。

 確かあれは――――


「――――あの子と出会う前の日のことでしたね」


 脳裏に年若い騎士の顔が浮かんだ。

 人一倍体が小さいのに、何度も剣を振って、振り回されて。最初は笑っていた騎士の連中も一年を過ぎる頃には模擬戦で一撃を食らうようになってしまった。おかげで下から上まで鍛錬でさぼる者がいなくなったのは良いことだろう。

 今ではマリーやアイリス以外とも話す姿をよく見かける。それもどこかぎこちない顔で話すのではなく、年相応の笑顔で。

 一番のきっかけは、やはりユーキとの出会いからだろう。言葉にこそ出さなかったが、マリーとアイリスの後ろで、和の国の少女と同じくらい心配そうな顔をしていたのだ。以前の彼からは想像もできない。


「まるで子離れできない親バカですね。これでは伯爵のことを笑えないではないですか」


 一人伯爵の背を追いかけながら口の中で呟く。


 ――――どうかこの嫌な予感が彼に訪れるものではないように、と。

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