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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第6巻 蒼天に羽ばたく翡翠の在処

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斯くして翡翠は蒼天に消えるⅣ

 二つ、三つと時を数え、最終的に三分が過ぎた頃だろうか。身動き一つしていなかった男の影が動いた。


「どうだった? 何かわかったことは?」

「いえ、特には」

「そうか。わざわざ済まないな」


 狭い部屋に横たわった巨大なラミアを跨いで、男は部屋を出た。

 地下室だったためか、通路に出ても薄暗くどこかかび臭い。そのまま目の前の通路を進んで階段を登ると、冒険者ギルドのホールへと出る。そのまま喧騒を無視して通り過ぎ、静かな夜空を見上げた。

 既に陽は沈み、三日月が顔を出していた。微かな月光が男の顔を照らす。


「まったく、上手くいかないものだな」


 ギャビン・サリバンはユーキたちが倒したのラミアの検死をしていた。尤も、それはどう殺されたかではない。あの森でどのような生活を送っていたのかを過去視の魔眼で確かめていたのだ。

 バジリスクが出た森に巨大なラミア。当然、何らかの因果関係があったと考えるのは不思議な話ではない。


「母か……」


 冒険者ギルドの入り口を背に目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのはラミアから読み取った記憶(えいぞう)だ。

 何もなかったわけではなかった。ラミアの記憶の中には、バジリスクと思われる明らかに他の魔物とは違う蛇が残っていた。

 最初は卵。その次は小さな蛇。視界が切り替わるにつれて、その姿は大きくなっていった。いつもならば、細切れとはいえ、長時間記憶を見続ける集中力がなかったが、ユーキの視界に閉じ込められた経験が活きたのだろう。一気にラミアの記憶を覗き見ることができた。

 最後に彼女が見たのはユーキたちに斬られる瞬間だった。それでも事切れる間際、その視界に一瞬だけ、攫われたと思われる少女の姿が映った。


「バジリスクの子育ても終わりを迎えそうな矢先に新しい子供を攫った、とみるべきか。バジリスクは大きな枠組みでは同種族だから餌とはならずに、育てることができたが、人間ならばその限りではない、か」


 誰にも聞こえない声でぼそぼそと独り言を言いながら、自分の推理で過去視の映像を補完していく。

 そして、バジリスク側の視点から見れば、今回の事件は起こるべくして起こったことなのだろう。


「自分の育ての親が死んでいるのを見たら、そりゃ怒り狂って襲うのも無理はないな」


 後から聞いた話では、かなり腹を空かせていたとのことだ。獲物を狩って、母に喜んでもらおうと帰ってくるバジリスクの姿が浮かぶ。

 育ての母の遺体の周りに人が集まっていれば、それは間違いなく犯人としてしか見れないだろう。何人かでバジリスクを誘導したとのことだったが、そんなことをしなくても村は遅かれ早かれ襲われていた。

 ある意味では、被害を最小限に抑えることができたといってもいいが、ギャビンの胸の内は穏やかではなかった。


「あの巨体でまだ子供か。成長しきったことを考えると鳥肌が止まらないな」


 彼が見た記憶は一年に満たない。記憶に出てきた植生の様子からして春からだと予想できる。そうするとわずか半年に満たない期間で、大蛇にまで成長していることになる。

 これが数年間、バレずに続くなどと言うことは食料の関係上不可能に近い。世界中に大きな魔物は存在しているが、その多くは食料をそこまで消費しない。

 この場合、ギャビンは一つの結論に達していた。


「バジリスクは何者かによって生み出された存在、ということか」


 食料を食いつくし、土壌を汚染するなど、種として見たときに存続できないことが明らかだ。先天的、後天的かを問わず、何らかの形で無理やり生み出された存在なことは想像できた。まさか、魔王が生み出した存在だとは思いもしないだろうが。

 そこまでの結論に至ると、どうしても一つの疑問に辿り着いてしまう。


「では、生み出したのは()()


 ラミアが生み出したわけではない。あくまで彼女は落ちていた卵から生まれたバジリスクを育てただけだ。

 何者かが、用意した卵。まだ、この事件は解決していない。恐ろしい化け物を世に放とうとしている何者かが、どこかに潜んでいる。

 ギャビンの眼は鋭く周りを見渡した。


「――――とはいえ、何の手がかりもない以上、僕にできることは限られている。だけど、何としてでも、()()()()()は取ってあげないと」


 ギャビンの瞳が怪しく光る。口の端が持ち上がりかけると同時に、後ろから来た冒険者とぶつかってしまった。


「おっと。わりいな兄ちゃん。そんな入口で突っ立ってるとあぶねぇぞ」

「あ、あぁ。こちらこそ、すまない」


 謝罪をして踵を返した時、彼の表情は元に戻っていた。


「あれ? 何を考えていたんだっけ?」


 首を傾げながらギャビンは呟いた。

 何か大切なことを考えていたはずなのだが、彼の中からはすっぽりと抜け落ちていた。

 釈然としないまま家路に着く彼の影が、蛇のように一瞬、揺らめいたのは気のせいだろうか。

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