斯くして翡翠は蒼天に消えるⅡ
マックスたちのパーティが部屋を後にしようとした時、何気ない顔でファンメル三世はマックスを呼び止めた。
「そういえば君はA級冒険者の――――最年少記録を更新した子がいるパーティのリーダーだったな。少し話したいことがある」
「……先に、外へ行っててくれ」
ウッドへ頼むとマックスは扉をゆっくりと閉めて、扉に鍵を閉めた。
部屋に残されたのは何人かの国王とマックス。そして数名の近衛騎士のみだ。
「お前たちも席をはずせ」
「それは――――」
「構わぬ」
――――たかが冒険者ごときに二人きりになるのは危険である。
そう忠告しようとしたのだろう。だが、言い切ることなく国王に断られては、下がる以外に選択肢はない。もう一つの扉から近衛騎士が下がるのを見届けて、彼はため息をついた。
「前に会ったのはいつだったか」
「半年以上前かと」
「うむ。その時は依頼を受けながら、エルフの森を目指すと言っていったな。確か、あのエルフの少女の故郷だとか」
片肘を付きながら国王はマックスを面白そうに眺める。
対してマックスは跪いたまま短く返事を返すのみだ。
「エルフの国とはどういったものか。ここから動くことができない身としては、非常に興味をそそられるのだ。人伝に聞くことも有るが、内容が歪んで伝わることも多々ある。ぜひ、その目で見た感想を教えてほしい」
「陛下はエルフの国のどのお話をご所望でしょうか。服、食、住居、法、土地……挙げればキリがありません」
「そうだな。とりあえず、あちらの国王陛下の名を聞いておこうか」
マックスの顔色が変わった。
それを見ていた国王はいたって涼しい顔で眺めている。沈黙が続いていたが、ふっと笑みを浮かべるとマックスへと語り掛けた。
「まったく、せめて嘘をつくならマシな嘘をつけ。どうせエルフの国になど行かず、国内の魔物退治をして回っていたのだろう。このバカ息子め」
「父さん、勘弁してよ。本当にいくつもりだったんだけど、レナがごねてご破算さ。結局行けたのは全然関係ないエルフの集落で国ってほどじゃなかったんだ」
急にマックスは立ち上がると困った顔で両手を上げた。
その姿に国王も苦笑する。
「大方、家出同然で出てきた身だから帰りたくないとでも言われたんだろう。女の扱いに関しては父親に似なかったわけだ。俺だったら、間違いなく口説き落としてでも連れて行かせたぞ」
「それは関係ないだろ。それに俺だって女の一人や二人くらいいつでもできるさ」
「言ってろ言ってろ。そんなこと言ってるうちは、間違いが起きてしまわないか臆病になって、手を出せないもんだ」
愉快そうに笑いながら国王は、人差し指で肘置きをトントンと立たきながら目を細めた。
「それにしても驚いたぞ。まさか道中で偶然聖女と出会うとはな」
「こちらも心臓が止まるかと思いました。いきなり抱き着かれた挙句、勇者だとか言われたものだから、何のいたずらかと」
「――――何?」
国王の顔が豹変した。先程まではどうやって息子を弄ってやろうかとニヤニヤしていた顔が、急に引き締まる。そこにはファンメル国・現国王としての顔へと一瞬で入れ替わっていた。
「聖教国サケルラクリマでお告げがあったそうだ。何でも『勇者を探せ』と」
「何だって……!? つまり、あれは本当に?」
「面倒なことになった。よりによって、お前が勇者候補になるとはな」
今度は拳を肘置きへと軽く叩きつけた。困惑と苛立ち、そして怒りの表情が浮かんでいる。
マックス自身も戸惑いの色を隠せずにいた。もしも魔王が出現すれば、勇者は討伐に向かわなければならない。
最悪、マックスは魔王との戦いに出向くのは構わないと思っていた。魔王討伐には勇者たちだけでなく、各国からの軍隊が援軍に駆け付ける。
しかし、それはマックス個人の考えであり、自分の地位を考えると簡単には決断できないことだったからだ。なぜならば勇者は、その切り札として最終的には魔王の最前線へと送られる。
「流石に皇太子であるお前を、魔王の前に立たせるのは国王としても父としても避けたいところだ」
ファンメル国王位継承権第一位。それが冒険者として国内の魔物を討伐していたマックスのもう一つの姿だった。
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