表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第2巻 漆黒を歩む者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/2417

騎士への道のりⅢ

 ギルドに戻ってきたユーキは、さっそくゴブリンの耳を渡して依頼完了の受付を済ませる。報酬の硬貨は、そのまま預かってもらい店を出ると、そのまま防具などを売る区域へと足を運んだ。

 目的は装備の補修だ。そもそも、装備の点検の仕方もわかっていないので、ついでに教えてもらおうと考えながらメインストリートを曲がって、中程度の幅の道を進んでいく。冒険者ギルドの受付で教えてもらった商店を探しながら、周りの風景を見渡した。

 赤茶けた木造建築物やレンガの店など、少しばかり古風というか年季を感じさせる建物がところどころ見られる。少しずつ同じ見た目の建物が増えてくると、煙突から煙が排出されている店が目立ってきた。同時に金属を叩く音がそこかしこから聞こえ始める。

 その中の一つに鍛冶屋と商店が一緒になった店があった。店に入ると、右側の壁には所狭しと剣や槍が並べられ、左側には盾などが置かれていた。中央には様々な鎧が木の棒に着せられている。

 店内は窓から入る一部の光と魔法石から放たれる輝きだけが辺りを照らしていた。アラバスター商会の武器の置き方がまさに美術品といった様子なら、ここはまさに戦場を前に今にも赴かんとする戦士たちが控えている雰囲気が感じられた。


「ん? 何だユーキじゃないか」


 そんな戦場を思わせる場所には似合わない高い声がカウンターから聞こえた。そちらに目を移すと特徴的な紅いポニーテールが見えた。その髪にユーキは見覚えがあった。ユーキはそのまま進んで、少女に声をかける。


「やぁ、クレア。外の採取以来か。元気だった?」

「体の方は無事だけど、武器や防具はガタがきちゃってね。今日は新しい相棒を見繕いにきたのさ」


 そういって、以前よりも十センチほど長い短剣を見せる。店内の明かりを反射して、青白い光を放っていた。クレアは手馴れた様子で自分の手足だとでもいうように、片手でクルクルと回した後、それを鞘へと納めた。思わず、感嘆の声を上げるユーキにクレアは微笑む。


「まぁ、こんなもんさ。何度も使っていればね。そんなことよりさ、あたしが遠方に依頼で行ってた間に、ここで物騒な事件が起こったんだってな。そっちも被害が無さそうでよかったよ」


 そういって、肩を叩く。箝口令が引かれているはずだが、それを知っていることにユーキは疑念を抱くことなく、クレアの笑顔の前で苦笑いを浮かべた。


 ――――その物騒な事件での一番の被害者は自分なんです。


 口が裂けてもそんなことは言えなかった。


「で、ユーキは何しに来たんだ? 武器を買い替えにでも来たのか?」

「今回は、防具とかの整備の仕方を聞きながら直してもらおうと思ってね。少し前までは剣も鎧も触ったことすらなかったから」


 グールと戦った時に使っていた剣は使い物にならなくなってしまった。既にそちらは新調してあるので、どうせなら防具も、と考えたわけだ。


「へぇ、その年まで触ったことがないのは珍しいね。大抵、その年頃の男子は、こういうのに憧れるだろう?」


 そんな話をしていると、カウンターの奥から筋肉隆々のおじさんが現れた。はっきり言って、どこのボディビルダーだと言わんばかりの体である。よほど暑いのか体中が赤くなっていて、額から出た汗をぬぐっている。どうやら、この店の主のようだ。その男は嬉しそうにユーキに話しかける。


「なるほど、補修の仕方を習いに来るとは若ぇ奴にしちゃぁいい心がけだ。だが、ちょっと待っててくれや。先客を終わらせてからだ。クレア、新しいグローブだ。また、なんかあったら来な」


 そういってカウンターへ、指貫グローブを置いた。クレアが受け取って、さっそく手にはめる。黒と茶の斑模様にいくつかの金属製の板がくっついたグローブがすっぽりとクレアの手を包む。何度か、指を動かしたり、握りこんだりした後、短剣を持つ。そのまま誰もいないところへ素振りを二、三回した後、静かに呟いた。


「うん。流石、熟練鍛冶職人(マスタースミス)。しっくりくるよ」

「あたりめぇだ。何年、この仕事やってると思ってんだい。とはいえ、流石にグローブを改造なんて数えるほどしかやっちゃいねえ。不具合が出たら、すぐに言うんだぞ」


 お互い、何年も付き合った仕事仲間のような会話に、ユーキはクレアがかなりの依頼をこなしてきていって、ここでお世話になっていることがわかった。それもユーキが普段は受けない討伐系の依頼を、だ。そんなことを考えていたユーキへ、クレアから声がかかる。


「そうだ、ユーキ。あんたの腕も見てみたいから、今度、一緒にパーティ組んでみないか?」

「んー、当分は採取依頼メインなんだけどなぁ」


 ユーキはクレアの言葉に即答せず、少しばかり考えた。何故ならば、自分以外の人と組むにはメリットもあればデメリットもあったからだ。

 メリットは安全に戦闘を行いやすいこと。そして、自分の戦闘技術が向上する意見を貰えること。デメリットは自分のガンドを大っぴらに使えないことと報酬が少なくなることだ。

 数秒悩み、ユーキは結論を出した。


「わかった。足を引っ張るかもしれないけど、そこらへんは許してくれ」

「オーケー。じゃあ、さっそく明日はどう? コボルトかゴブリンくらいなら楽勝でしょ?」

「ゴブリン依頼をクリアしたばかりの初心者だから、ほどほどで頼むよ」


 いくら相方が強いといっても、所詮はパーティは二人。数の暴力の前では基本的に無力なのだ。それをユーキは頭のどこかでわかっていた。圧倒的な防御力か機動力、あるいは一瞬で薙ぎ払える火力がなければ多対一の戦闘で勝利するなど不可能だ。

 それを考えると、先程までの依頼もソロで受けるにはなかなか危なげな戦い方だったとユーキは反省する。


「じゃあ、坊主。お前さんの今後の予定のためにも、しっかり装備を整えてやらないといかんな」


 店主が口の端をつり上げながら言ってきた。クレアとは、明日の朝に冒険者ギルドで待ち合わせをすることにして、装備の点検を行うことにする。

 鎧の金具の緩みを直し、もう直しようがないレベルのものは処分して、新しく買い直した。尤も、最初からタダ同然の装備だったので痛くもかゆくもない。

 それよりも、今回は補修の仕方については勉強になった。正確に言うならば補修というよりも、前段階の普段の整備の仕方だ。これから戦闘を行うにつれて、この作業が必要になっていくのだろう。

 今後の、整備のことにも思考を巡らせていると、店主から声がかかる。


「おい、少し剣が歪んでるぞ?」

「え!? 買ったばかりですよ!?」

「こりゃ……あれだな。粗悪品を掴まされたってやつだ。あまり他の店の悪口は言いたかねえが、そういう奴らもいるってことを坊主も知っておけ」


 見れば、剣の腹を光にかざすと、規則的な反射光の中に歪みが一部見えた。どうやら棍棒を防いだ時に歪んでしまっていたらしい。


「アラバスター商会とまではいかないが、うちのも安価で耐久度の高い量産品がいくつか用意してある。まぁ、まずはこれくらいのやつがいいかもな。今後の活躍とご贔屓を願って、銀貨二十枚で売ってやるよ」


 店主の好意に甘えて、一振りの剣を購入した。粗悪品をあれやこれやで店主が手を加えた品らしい。

 少なくとも、値段以上の価値があるようで、歪んだ剣よりも重みがあり、力強さを感じる。

 これより質のいい量産品は値が張るのは当然だろうが、そちらを購入する余裕があるか悩む。最終的に、手にしっくりくる気がする前者を選んだ。物の善し悪しといった鑑定眼は持っていないが、魔眼で見ると、新調した剣から発せられる光は歪んだ剣よりも遥かに強く、気分的にもユーキは安心感を覚える。


(少なくとも、食事と装備には金をかけた方がいいかもしれないな)


 いくら金の亡者状態だったとはいえ、金のために命を危険にさらすなど愚か者のやることだ。これから先、戦闘がどれだけあるかもわからない。そういったことにも気を使えるようになっておいた方がいいのは確実だろう。

 その他、話をしていく中で、目利きの仕方も店主からいくつか教わった。


「それで、他の店で俺が買うようになったら、店としては困るのでは?」

「他の店に移るようなら、俺がそこまでの腕だった、ってことだ。坊主が気にすることじゃない」


 いろいろと心配になって聞いてみたが、店主は趣味で始めたので特に利益を追求しているわけでもない。だから売れようが売れまいが、それは問題ではないらしい。

 自分の武器がこの国の人の役に立って、命を守ることができたのならそれでいいというスタンスなのだとか。

 そんな店主の言葉に複雑な気分になりながら、ユーキは店主に礼を言って店を出た。


「せめて、この剣が人に向かないことを祈るばかりだな」


 結局のところ、武器というのは殺しの道具だ。どんなお題目を立てようが、決して覆すことのできない定義で事実。故にすべては担い手が決める。ユーキが呟いた言葉は季節外れの寒い風に溶けて、誰に届くこともなく消えていく。ユーキは脇目を振ることなく宿へと歩を進めた。

【読者の皆様へのお願い】

・この作品が少しでも面白いと思った。

・続きが気になる!

・気に入った

 以上のような感想をもっていただけたら、

 後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。

 また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。

 今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 前章でも見掛けましたが、コボルトとの戦闘絵者がないのに登場してます。 ゴブリンと打ち間違えてるって事で良いですか? 後、ここまでに誤変換が修正されず幾つかありました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ