斯くして翡翠は蒼天に消えるⅠ
翌日、王都から来た兵たちに連れられて、サクラたちは移動していた。
途中で聖女たちとも合流し、かなりの護衛がついた大移動となった。幸運なのは、それなりの大型馬車で全員が歩くことなく移動することができたことだろう。
騎馬のみによる編制だったためか、移動時間もだいぶ短縮でき、陽が沈む前には王都の城門を潜ることができた。
そのまま王城へと通されると、ファンメル三世が苦虫を噛みつぶしたような顔で待っていた。
「うむ。良く帰って来てくれた。流石の余も気が気でなかったぞ」
「お騒がせして申し訳ありません。陛下。すべては私共の責任です」
頭を下げるソフィアに対して、幾分か表情を和らげた彼は首を振った。
「聞いた所によると、だ。此度、討伐したのは魔王の眷属に連なる大蛇と聞いている。そのような相手に対し、被害が村一つ分の建造物のみで済むなど奇跡以外の何物でもない。むしろ、こちらが感謝するべきだろう」
ソフィアたち聖女一行から順に目が移っていくと、サクラたちの所で動きが止まった。
マックスたちの人数が出発時に比べて増えているが、彼が事あるごとに推していた人物の姿が見当たらないからだろう。
「それで、彼はどこにいるのだ?」
「彼とは……?」
「ユーキとやらだ。元々、今回の内容も余の推薦みたいなものがあったからな。それで何かあっては沽券にかかわる」
何度も顔を見渡すが、現在、聖女として振舞っているソフィア以外、顔を上げることが許されていないため、迂闊に応えることができないのだ。
「構わぬ。知っている者は答えよ」
「恐れながら、陛下。発言をお許しいただいてもよろしいでしょうか」
「ローレンス伯の娘か。よい、許可する」
「はっ」
普段はおてんば娘でも辺境伯の娘、そして元公爵家の母を持つ身であれば、このような場でも冷静に対処できる。改めてマリーの貴族ぶりを目の当たりにして、微妙な表情を浮かべる者が何名かいた。
「現在、ユーキは療養の為、我が母、ビクトリアに連れられてローレンス領にいると思われます」
「…………はぁ?」
国王から王族が出してはいけない声が聞こえてきた。
唖然とした表情でマリーを見つめる国王ではあるが、その顔を見ているのはソフィアと横にいる宰相だけだったのが不幸中の幸いだっただろう。
たっぷり五秒ほど思考が停止していたようだが、宰相の咳払いで国王の脳が再起動をした。
「そ、それで、どうしてそうなったのだ?」
「魔物討伐時に限界まで魔力を使用したため、外傷は治療したものの、精神面に負荷がかかったのでしょう。神経衰弱していたところ、母が面倒を見ると言って、連れ去っていきました」
「連れ去る、って。言い換えれば誘拐ともとれる事案だぞ」
「陛下。ビクトリア様なら変なことはしないかと思われます」
宰相が小声で指摘すると、彼はしぶしぶと言った感じで納得したようだった。
「(うちの両親、あたしの知らないところで何やってんだよ。おかげで変なところで疑われてるじゃんかよ)」
一番納得が言ってないのはマリー自身だ。
顔にこそ出てはいないが、内心ではビクトリアに本気で怒っていた。言葉だけなら親切なようにしか見えない行動も、ローレンス夫妻というフィルターを通した瞬間に、国王ですら不安にさせるのは問題だろう。
「まぁいい。ローレンス領には少し連絡を取ってみよう。後はそうだな。村の復興については宰相、お前に一任させて良いか?」
「元々王都から役人を派遣する手はずでしたので、復興担当として派遣し、そのまま駐留させるのもいいかと」
「決まりだな。税を免除し、必要な資金を出せ。後は魔術師ギルド、教会ギルドに声をかけて土地の汚染がないかを調べておけ。可能なら同時並行で家を何軒か立てても構わん。国庫にある金に余裕はあるからな」
「御意。早速、取り掛かります」
宰相が部屋から出て行くのを見守ったあと、国王は再度感謝の言葉をかけ、退室を促した。
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