寸陰、日を跨ぐⅤ
ユーキを背負っていたウッドはギャビンの顔を見た後、眉根を寄せてサクラの方へと呼びかけた。
「おい、嬢ちゃん。知り合いか?」
「はい。先日、ユーキさんが倒れた時にギルドで治療してくれた方です」
その言葉を聞いてウッドは再びギャビンへと視線を戻した。
「あんた。この先の村で俺たちに護衛を依頼していた奴か?」
「えぇ、確かに森での護衛を依頼していていたが……。なるほど、あなたたちが依頼を受けてくれた冒険者パーティか。昨夜から何があったのかわからず、途方に暮れていたんだ」
ギャビンは手を差し出そうとしたが、両手が塞がっている様子を見て、すぐに引っ込めた。
困った顔を浮かべながらマックスがギャビンの前へと出て手を出す。
「このパーティのリーダー、マックスです。本来なら、現地で落ち合うはずでしたが、ここでお会いできて良かった。この後、依頼の処理についてのお話をさせていただきたいのですが、よろしいですか?」
丁寧にあいさつをすると、ギャビンもその手を取った。
「こちらこそ状況を把握してから動きたい。ただ、かなり大変な様子と見えた。一度、宿に入ってから話をした方がいいと思うが、どうだい? もっとも、私の泊まっている部屋しかないのだがね」
「そうですね。隣村の人を全員受け入れたせいで、どこもかしこも許容量を超えているでしょう。屋根のある部屋に行けるだけでも幸運です。君たちもいいかな?」
サクラたちにマックスが呼びかける。
どうしようかと戸惑っていると、ビクトリアが代わりに答えた。
「お言葉に甘えましょう。ちょっと大所帯だから迷惑になってしまうけれども、それも踏まえての提案でしょうし」
「私たちは外で結構です。少しやっておかなければならないことがあるので」
ソフィアは辞退を申し出た。
ここに来るまでに、もう一つの遠距離から見張っていた護衛部隊と接触するための準備を進めていたからだ。どのような方法を使ったかはわからないが、どうやら、この村のどこかで会うらしい。
「そうか。じゃあ、また村を出る時に会えると良いな。それでは、ギャビンさん。よろしくお願いします」
「ああ、着いてきたまえ」
ギャビンについて行った先にある宿は、村の中でもランクが高いとはいえ、王都の物件と比べると大分下になる。冒険者用の四人部屋を一人で使っていたためか、マックスたち四人とユーキたち九人が追加で何とか入ることができた。
それぞれの布団にユーキたち、マックスたち、オーウェンたち、そしてギャビンと自然に仲間ごとに固まる。
オーウェンたちはまだ疲れているのか、立っているのも億劫だとばかりにベッドへと座り込む。
「何故、四人部屋を……?」
「いや、昨日までは相部屋だったんだ。昨晩のことを受けて、三人とも王都へと逃げ帰ってしまい、残ったのは僕だけ。一応、君たちが来たとき用に、部屋を四人分払って村人を入れないようにしておいたけど、正解だったみたいだ」
あまりの用意の良さに呆然としながらもお礼を言って、ユーキを布団へと横たわらせる。
その様子を見ながらギャビンは目を細めた。
「それで、隣の村で何があったのかな? 何やら蛇の魔物が出たという話を聞いた。それも相当巨大な」
「……」
一瞬、マックスがビクトリアへと視線を向ける。対して彼女は片手を上げて、先を促した。
「話をするよりも見た方が早いでしょう。私に過去視を使っていただければ、すぐにわかります。一応、見せられないところは抵抗させていただきますので、ご了承ください」
「わかりました。僕も面倒ごとは嫌いですからね。許す範囲で見させていただきますよ」
そう言ってギャビンは一度目を閉じると、カッと眼を見開いた。その瞳は僅かに水色と灰色が混ざったような不思議な色に変わっていた。
「ギャビン――――魔眼探究の一族の坊ちゃんね。ちょっと刺激が強いかもしれないけど大丈夫かしら?」
「――――っ!? なんだ、これは……!?」
「何とか倒すことは出来ましたが、恐らく森には脅威が残っている可能性もあります。今回の調査は断念するべきだと忠告しておきます」
冷や汗を垂らしながら、狼狽えるギャビンにマックスが畳みかけるように言うと、即座に頷いた。
「あぁ、この惨状なら王都の警備隊――――いや、軍が封鎖をするだろう。仕方あるまい。依頼は取り下げておこう」
「お力になれず、申し訳ありません」
マックスが頭を下げる裏で、ウッドとリシアは親指を上げて、依頼の取り下げが上手くいったことを喜んだ。一方でレナは興味なさげに布団に腰かけてうつらうつらとしている。
そんな中でユーキを囲むサクラやフェイたちを見たギャビンは、一歩近寄った。
「彼は、その戦闘で倒れてしまったのかい?」
「はい。魔力を使い過ぎたみたいで、今は眠っていますが」
「そうか。僕にできることがあればいいんだけど……」
そう言った彼の瞳が再び色を変える。彼としては親切心か、はたまた以前に垣間見た視界への興味か。或いは自分の仕事を邪魔した大蛇への関心が高まったか。いずれにしても、彼は自分の取るべき選択を間違えた。
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