寸陰、日を跨ぐⅢ
「ちょっと待ってくれ。さっきユーキが真似したって言ってたよな?」
マリーが慌ててソフィアに詰め寄る。その勢いに思わず仰け反りながらソフィアは頷いた。
「つまり、ユーキも究極技法ってやつを使ったってことか?」
全員の視線がソフィアへと集まる。
ビクトリアの言葉に正直に答えたことを後悔しているのか。ソフィアは、その視線を受けて顔に影を落としたが、はっきりと頷いた。
「えぇ、あのような身体強化はそれ以外に考えられません。おまけに彼の場合、刀を振り下ろす時やガンドを放つ時に、その魔力を上乗せして放っていたようでしたから、扱いだけで言うなら私よりも上かと」
「マジかよ……」
嘘偽りない言葉にマリーは開いた口が塞がらないようだった。それは他の者も同じで、受け取り方こそ違えど、衝撃を受けているのは間違いない。
「それで、ウンディーネさん。彼の治療は終わったかしら?」
『やっぱり、誤魔化しは効かないですよね。最後まで私のことを放っておいてくれればよかったのですが』
「それは無理な話よ。私、生粋の魔法使いだもの。知らないことはできるだけ知りたいと思うのは、仕方のないことでしょう?」
人の探られたくないところへお構いなく踏み込んで来られるのは誰でも嫌がる。その点では、ビクトリアも当てはまるはずなのに、何故かそういう感情が湧き上がらないのは不思議であった。
ウンディーネはため息をつきつつ、ユーキに向けていた両手を下ろして立ち上がり、正対する。
『私は彼には友好的ですが、人間という種族全員に対して同じ感情を持っているかと言われればノーです。むしろ、彼のように接する人の方が少ないです』
「そうね。精霊種と人間は敵とまではいわなくても、軋轢があるのは事実。だけど今回は、あくまで私は自分の娘を助けてくれた者にお礼が言いたいだけよ」
『先程言っていたことと随分違いますが』
「それはそれ、これはこれよ。女にはね、いくつもの顔があるのよー」
ジト目で睨むウンディーネに対し、ビクトリアはあっけらかんとした顔で言葉を返す。
傍から見ているアルトやサクラたちがハラハラしてしまう程だ。マリーとアイリスだけは慣れているのか、何も反応しない。むしろ、倒れているユーキの方へ向かっていき、ほっぺたを突き始める始末だ。
「とりあえず、みなさん。改めてお礼を言うわ。うちのバカ娘を助けてくれてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。ビクトリアさんがいなかったらどうなっていたか」
アルトが頭を下げるビクトリアに慌て始める。その横でソフィアも頷く。
「ビクトリア様が来なければ、我々の命はなかった。助けられたのはこちらの方です」
「そう? じゃあ、お互い様ね」
「おや、あれは……ウッドたちか?」
にっこりと笑ったビクトリアの後ろから、何人か駆け寄ってくる人影が見え始める。ウッドとフェイを先頭に大勢の村人が掛けてくるところだった。
「さっきの火柱は一体――――って、ビクトリア様!?」
「あら、フェイちゃん! あなたも来ていたのね。良かったわ無事で」
マリーと同じようにフェイを思いっきり抱きしめた。
あわあわと瞳が右往左往しているフェイの横を通り抜けて、ウッドとリシアがマックスへと駆け寄る。
「そっちは大丈夫だったか?」
「あぁ、こっちはだいぶやられたみたいだな。幸いにも死者はなしか。上出来じゃねえか」
「レナ、大丈夫?」
「これくらい、一日寝れば大丈夫。むしろ、ユーキの方が心配」
レナの視線はユーキへと向けられていた。その言葉に不安になったサクラは、思わずユーキの姿を目で追った。
「何か、あるんですか?」
「確証はない。けど、あれだけの魔力を放出することができる人は少ない。間違いなく、体のどこかにダメージが出る。だから、さっきの薬を渡した」
「え? あの薬、渡したの?」
今度はリシアが驚いた。
「何か、おかしかった?」
「いや、前に村であった時は仲が悪かったから」
「別に悪かったわけじゃない。信用できるかわからなかっただけ」
「何だ。レナが――――ぐっほ!?」
フッと氷のような冷たい表情が一瞬だけ緩んだ。
その表情を見たリシアは驚きを隠せないでいたが、ウッドが何か言おうとしたのを小突いて止める。
「まぁ、何とかなって良かったよ。とりあえず、朝日が昇ったら隣の村まで移動しようか」
「そうだね。あー早く布団で寝たーい」
マックスたちが気楽に言葉を交わす傍ら、サクラの表情を不安という影が覆っていった。
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